若手職人を国際市場の舞台へ 国内最大級の手工芸品展 イナクラフト
中央ジャカルタのジャカルタ・コンベンションセンター(JCC)で昨年3月、コロナ禍を経て2年ぶりに再開した国内最大級の手工芸品展「イナクラフト」。今年は3月と10月に開催され、昨年に続き年2回実施が定着しつつある。今月4~8日に開かれたイナクラフトでは、来場者数10万人と総売上額500億ルピアを目標に据え、会場には772のブースに全国各地から参加したブランドがずらりと並んだ。
「行こう、行こう」と思いながらも気が付けば会期が終了しているイナクラフト。遂に重い腰を上げ会場へ向かう。今回は、若手職人を国際市場の舞台へ出展させることが趣旨に盛り込まれ、Z世代にも響く作品が設けられたという。
バティック(ろうけつ染め)やトゥヌン(織物)といった伝統工芸品ばかりが並ぶイメージだったイナクラフト。しかし、持続可能な開発目標(SDGs)は時代の合い言葉。葉を布に当て高温の蒸気で加熱することで、模様と色をそのまま布に映す環境に優しい「エコプリント」生地や、バティックを現代風にアレンジしたかばん、デザイナーのアイデアが光る個性的な服飾品も多い。
日本の家族や友だちへのお土産をまとめて買うならうってつけのイベントだと感じた。
「もうバティック生地を購入してはならず」を自戒に、バティックに手が伸びそうになる自分を制御しながら歩を進める。所かまわず気に入った生地を買うと、バティック沼から抜け出せないだろう未来が目に見えているため、旅行で訪れた土地でしかバティックを買ってはならないと自分ルールを作っている。
「インドネシアのマダムは何を着ても似合うなあ」と目に付いたバティック柄のワンピースを鏡に当てながら思った。成人式で着慣れない振り袖がみな似合うように、伝統衣装はその土地に生まれ、その土地で育った者だと自然と似合うものなのだろうかと少し嫉妬した。
人波を縫い、ひしめく工芸品が並ぶ広大な会場を歩くと次第に方向感覚を失う。そんな時に出会ったメダン出身のデザイナー、メイラニイ・シティンジャックさん。自身で考えたデザインをトラジャやバリ、ジョクジャカルタの職人に制作を依頼し、その土地に根付く伝統生地を用いた一点物の商品を並べる。
経営者として彼女は、「職人への手間賃は極端に安く、販売時は高額で売る。これではいけない。職人・販売者・購入者の相互利益がなければならない」と業界の悪しき慣習を突く。そして私に言った。実際に職人が働く工房に行き「月給はいくらか」「高齢なのに、なぜまだ働いているのか」を聞いてみてと。最後に、トラジャの工房を紹介してもらう約束を取り付け、次は作業現場を訪れてみようと思った。(青山桃花、写真も)