華やかさと民族意識の一体化 国軍創立記念式典 「国民の負託」に鳥肌
平時における軍と国民が保つ絶妙な距離感とでも言うのだろうか。10月5日は建軍78周年を祝う国軍の記念日。絞めるところは絞め、抜ける力は抜き、国民と1つになって祝賀ムードを盛り上げる。そんなインドネシアらしい演出が効いた粋な国軍創立記念日になったようで、少なからず羨ましかった。
式典当日の朝、事前情報が不十分で、何時にどこに行けばいいか、わからなかった。後に我々の取材不足もあったと知るが、長くコロナ禍の影響を受けた式典は今年、ようやく一般市民にも開放。モナス(独立記念塔)前広場に行けば、なんとかなる。そう高を括っていたが、甘かった。
閲兵を行うジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の警護のために広場は入門制限があり、強烈な日差しの中、重い機材を抱えて延々と歩く事になった。
ただ、実はこの入場制限には合理性があった。大統領らVIPの安全をまず確保し、その上で国民を広場に入れる。その全体像が見えていないから「取材ができない!」と不安にもなるが、VIPの安全とパレードの導線が確保できればそれでよし。語弊を恐れずに言ってしまえば、あとは自由自在。なんでもありだ。閉ざされていた門は開かれ、規制線のロープも外された。
物販は許可していないようだが、式典会場から少し離れた木陰にはアイスティーやらスナック菓子やらの物売りがいる。金属探知機があるゲートをどうやってくぐり抜けたのかナゾだが、親子連れも安心だ。
肝心の記念式典だが、前半は軍楽隊の行進曲に合わせて三軍がパレード。自動小銃を手に一糸乱れぬ行進する姿は壮観で、日ごろの訓練の厳しさを垣間見る思いをした。
しかし、F16戦闘機による編隊飛行で幕開けた後半のパフォーマンスが始まると空気は一転する。会場にはリズミカルなジャワ・ポップスが大音響で流れ、曲技飛行隊「ジュピターズ」がアクロバット飛行を披露。ここにヘリ部隊「ペガサス」が舞う。
モナスを舐めるように旋回するなど高度な操縦技術に裏打ちされたその演出は、まるでディズニーランドのエレクトリカルパレードのよう。その華やかさはこの国の民族意識と一体化し、観客の興奮はピークに達した。
日本では、自衛隊員倫理法に「職務は国民から負託された公務」とあるが、存在の根幹に関わるこの相互信頼に欠けた試練の道を通ってきた。
これに対しモナス前の国軍パレードには国民が歓喜する姿があり、兵士は手を振って笑顔を返す兵士たちがいる。「主権、領域、国民」を国家の3要素とすれば、これが三位一体となるインドネシアは、主権国家として健全なのかもしれない。(長谷川周人、写真も)