兵站の限界は作戦の限界 スーパー・ガルーダ・シールド 陸自部隊の教訓に学ぶ

 「現場部隊にとって多国間の演習で得るものは多い。しかもここはいろいろな意味で良い場所だ」。陸上自衛隊の西田喜一1等陸佐(大佐に相当)は感嘆の声を上げた。
 インドネシアと米国が中心となる多国間の軍事演習「スーパー・ガルーダ・シールド」。陸自は第1空挺団(千葉県船橋市)を派遣した昨年に続き、水陸機動団(水機団、長崎県佐世保市)を初参加させた。西田1等陸佐はその指揮を執った。
 参加人数は計5000人を超え、参加国が15カ国と過去最大規模となった今年のスーパー・ガルーダ・シールド。島しょ奪還を想定した実動訓練では、上陸戦闘訓練や実弾を使った戦闘射撃訓練を実施した。
 〝敵陣地〟を制圧して演習を締めくくる戦闘射撃訓練では、戦闘機による爆撃に続いて容赦ないロケット弾による攻撃が始まった。演習場後方からは戦闘ヘリが超低空飛行で目標に近づき、対戦車ミサイルと機関砲で〝敵〟をたたく。この間も上陸部隊は戦車による援護射撃を受けながら前進を続け、第1空挺団は海外では初めて迫撃砲を実射した。
 ただ、第1空挺団も水機団も陸自が誇る精鋭部隊だが、日本の基本スタンスは専守防衛。その運用は他国陸軍とは異なる。
 インドネシアのユド・マルゴノ国軍司令官は演習終了後、「各国には各国の軍事ドクトリンがある」と指摘。特定の国を指したものではないが、有事における部隊運用を念頭にその違いを縮める訓練をインドネシアが主導したいと強調した。
 演習取材は2日間と短時間だが、兵站の限界を垣間見る思いをした。先の戦争を語るまでもなく、補給・輸送・管理は作戦の成否を分ける。例えば、第1空挺団は民間機で現地入り。装備はやはり民間の専門業者が海上輸送する。この段階ですでに兵站の限界が見えるが、まして想定を超えた事態が起きれば対応する術がない。
 実際、8日の空挺降下訓練は近隣の火山噴火で中止を余儀なくされた。すると、隊員たちは次の演習場に移動する手段がなく、米軍に頼み込んで輸送機で運んでもらうしかなかった。
 食事も課題を残した。基地内の隊員は慣れない地元料理を食べ、「ハンバーグみたいで美味しい!」と地元メディアの前で笑って見せた。対する輸送艦や輸送機で大量の物資を持ち込む米豪軍は、食事のメニューは選り取り見取り。クラッカーにレバーペーストを盛る豪兵の横で、米兵がチーズたっぷりのパスタをほおばるといった具合だ。
 「有事の際に想定はことごとく崩壊する。あらゆる事態に対処するという視点でみても、今回は良い経験になった」
 第1空挺団の上野智弘大隊長(2等陸佐)が指摘する通りだが、現場部隊の実情を理解することは重要だ。高度な政治判断が必要だが、兵站の強化に始まる訓練の高度化は抑止力につながる。換言すれば兵站の限界は作戦の限界を意味する。同志国との防衛協力は大切だが、その前提として自己完結できる能力が求められている。(東ジャワ州バニュワンギ=長谷川周人、写真も)

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