「誰のための首都移転か」 独立記念日  無邪気な大衆は「運動会」

 「ちょっと待ってくれと言いたい。そもそも誰のための首都移転なのか。国民は望んでいるのか」。78回目の独立記念日を迎えた17日、西ジャカルタから来た配管修理工のベニさん(41)はモナス(独立記念塔)前で憤懣やるかたない。
 ベニさんは修理工を生業としながらも、動画クリエーターとしての副収入が生活に欠かせない。「コロナが明けた今、イベントも増えてきた」と嬉しそうだ。ただ、ベニさんの得意とする題材は国軍。この日はモナス前広場に陣取り、空軍の飛行展示を待ち受けていたが、「来年はどうなるか、わからない」という。
 お隣のイスタナ(大統領宮殿)で開かれたジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が主催する式典では、マアルフ・アミン副大統領が「来年は新首都へ」をアピール。その様子がライブ中継される巨大スクリーンを見ながら、ベニさんは「IKN(ヌサンタラ=新首都)に行く金も時間もないよ」とぼやいた。
 首都移転計画はジョコウィ大統領が2019年、2期目の目玉施策に据えた。大統領選直後の閣議決定で唐突ともいえたが、東カリマンタン州の現地では今、来年8月の独立記念日に向けて突貫工事が進んでいる。
 しかし、「そこに国民を交えた議論はなく、我々はいつも蚊帳の外さ」とベニさんは納得いかない。「経済も政治も大切だ。でも新首都の安全保障はどう保つ? 山の中に戦闘機を配備する?」。
 どうやらベニさんは、移転決定のプロセスに不満をもらしつつ、来年以降も独立記念日に空軍の展示飛行を動画に収めることができるのか、気になってならないようだ。
 一方、目を街中に転じてみると、メラプティ(紅白)の国旗や飾りなどが施され、各地ともお祝いムード一色となった。独立を祝ってカンプン(集落)のRT(隣組)が主催する「運動会」も完全復活したようだ。
 「コロナが終息して制限なく色々なことを楽しめて嬉しい」。中央ジャカルタの運動会に参加していたファウザンさん(22)はこう言って無邪気に笑った。
 風船割りにクルプック(揚げせんべい)の早食い競争。水を運ぶバケツリレー、綱引きとRTによって競技は多種多様。歓喜の声を上げても、友だちとじゃれ合っても、もう誰もとがめることはない。大人も子どもも心の底から運動会を楽しんでいるように見えた。
 ただ、その一方で所得格差は広がり、カンプンに暮らす大衆はその日を生きるのに精一杯。運動会を楽しむ人々の姿が純真であるほど、為政者との認識ギャップを感じてしまい、少しもの悲しく思う。(長谷川周人、野元陽世)

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