ガンジャルの苦悩

 与党第一党の闘争民主党から大統領候補に指名されたガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事に対する世論の支持率が伸び悩んでいる。昨年まで人気ダントツで、正式に候補者指名されれば、大々的にキャンペーンを展開してライバル候補を突き放すと見られていた。しかし、4月の指名後、そういう風は吹いていない。何がおきているのか。
 ガンジャルの誤算は、自党の束縛にあった。候補者として指名を受けたのはいいが、元大統領で党首のメガワティは、「ガンジャル党員に大統領候補としての使命を与える」という上から目線を崩さない。これは、あくまでも党首である自分が一番偉く、その決定に党員は従うのだという彼女の権力意識を露骨に反映している。
 メガワティは、今のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が、党員としての立場をわきまえず、自分の命令を無視して人事や政策を進めてきたと認識している。そのトラウマから、ガンジャルの首にはしっかりと鈴をつけて、自分に逆らわないよう〝調教〟しようとしている。
 例えば演説には必ず党の赤いシャツを着させ、党のために闘うことを訴えさせる。また、ボランティア組織もすべて党の管理下に置こうとしている。副大統領候補もメガワティが決めるという。さらには、大統領になった際の党の専権分野や人事での禁止事項まで書かれた「契約書」を突きつけられている。すべて、ジョコウィの二の舞いは避けようとするメガワティの反動だ。
 しかし、ガンジャルはメガワティや闘争民主党の独占物ではない。同党の支持者は全国で20%ほどに過ぎない。大統領選で勝つには、プラス30%以上の票を他党の支持層から調達しないとダメだ。そのキャンペーンは、自党のカラーを極力おさえて、ガンジャルの独自色と大統領候補としてのビジョンを幅広く有権者にアピールする必要がある。今の状況は逆効果であり、ガンジャルが党カラーを出すほど、アンチ闘争民主党の有権者は絶対に彼には投票しないと決意しよう。
 各種世論調査が示すように、ジョコウィ政権は約80%の支持率を誇る。その有権者の多くは、彼の自立したリーダーシップを評価しているし、次の大統領にもそれを期待していよう。その視点からすると、メガワティや党益に束縛されるガンジャルは残念な人となる。
 むしろ、ジョコウィ路線の継続を訴え、誰の縛りも受けない不朽のチャレンジャーを演じるプラボウォに、有権者のシンパシーが集まってきても不思議ではない。
 プラボウォも、その力学をよくわかっている。ジョコウィの息子でソロ市長のギブランを副大統領候補にしたいと、ジョコウィに直談までした。この巧みな政治駆け引きは、一方で有権者に対し、自分こそがジョコウィの後継人だという立場を強力に示し、他方でジョコウィ自身にプラボウォとの共闘を誘うものである。
 ジョコウィとしても、ガンジャル政権がメガワティの管理下に置かれるようなら、自分も遠ざけられ蚊帳の外の人になる懸念がある。逆にプラボウォが勝てば、自分も重宝され続ける。政治家としてどちらにベットするか。高度な政治判断を迫られている。
 いずれにせよ、いかにメガワティ闘争民主党のカラーを薄めるか。それがガンジャルの選挙キャンペーンの肝になる。その戦略次第で、支持率上昇の可能性は十分にある。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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