アニス陣営の悩み

 次期大統領選挙への立候補を表明している前ジャカルタ特別州知事のアニス・バスウェダン。彼の陣営の動きが慌ただしくなっている。その象徴が、彼を擁立するナスデム党のスルヤ・パロ党首のロビー活動だ。
 今月5日にはアニスのライバルとなるプラボウォ国防相と面談した。先月初旬には、ゴルカル党党首で経済調整相のアイルランガと面談し、その2日後には海事・投資調整相のルフットと会談している。
 立て続けにライバル陣営のトップたちにロビーするスルヤの目的はなにか。様々な憶測を呼んでいる。その一つが、アニスの出馬がポシャったときの「プランB」の模索だという。なぜ、そんなプランを考える必要があるのか。そこにはアニス陣営の悩みがある。
 アニスは、ナスデム党と民主党と福祉正義党の3党からなる「変革連合」に擁立されており、各党は正式にアニス支持を決定している。なので、アニスの出馬は確実視されてきた。しかし、副大統領候補の選択が暗礁に乗り上がったままで、打開策が見つからないでいる。
 世論調査では、民主党の党首でユドヨノ前大統領の息子であるアグスが、アニスの副大統領候補として最有力視されてきた。アグス本人も、その実現を前提にアニス陣営に加わっている。しかし、アグス副大統領という可能性に対する抵抗感は政界ではかなり大きい。ライバル陣営はもとより、ナスデム党や福祉正義党にも、その抵抗が顕著にある。
 若くてハンサムなアグスを嫌がるのは、政界のオッサンらのジェラシーもあろう。しかし本質的には、もしアニス政権になった場合、その次の大統領候補のフロントランナーになるのがアグスだからという、先を見越した権力闘争が根底にある。
 アグスの政界でのキャリアは皆無に等しい。2017年のジャカルタ州知事選で政界デビューしたが負けた。父親から譲り受けた政党の党首をやっているが、それ以上でも以下でもない。そんな彼が今回副大統領になれば、その次の大統領選で最有力候補になるのは確実だ。そういう環境を整えることに対して、ほぼすべての政党エリートが警戒心を共有する。
 スルヤのロビー活動でも、その点が確認されている。副大統領候補は、「無難」で次のフロントランナーになりそうにない人でないと、政党間のコンセンサスは作りにくい。現政権にも、そのロジックが働いている。
 アニス自身も、そのことをよく理解している。アグスへの拒否感が強いのであれば、東ジャワ州知事のコフィファが理想だという認識も内々に示している。
 アニスはジャカルタや西ジャワには一定の支持があるが、中部・東ジャワには弱い。そこをカバーできるのが、ナフダトゥール・ウラマ(NU)の幹部でもあるコフィファだとされる。同時に、女性のコフィファは次のフロントランナーになりにくいという保守的な意識も働く。
 もちろんアグスは抵抗するだろう。連立から脱退という切り札をチラつかせて、コフィファに油揚げをさらわれる展開を拒むはずだ。コフィファ自身も、アニスの人気が今後も高まるのなら話を受けてもよいかもしれないが、そうでなければ現政権とライバル関係になることの大きなリスクも脳裏によぎろう。
 このように、一見、3党合意でアニスの擁立は固まったかに見えるものの、水面下での不確実性の数々がアニス陣営を悩ましている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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