大統領任期延長論の狙い

 大統領の任期は憲法で最長2期10年と定められている。これは、32年のスハルト長期政権を許した過去の反省に立った民主改革の肝と理解されてきた。その肝を捨てようとする試みが、去年以来活発になっている。それがジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の3期目可能論や、任期延長論、そして選挙延期論などの主張と、それに向けた政界工作である。
 もちろん本人に意思がなければ、そういう工作は持続しない。2期目の大半をコロナ対策に費やしてきたジョコウィとしては、本来やりたかったことを手掛けるためにも、もし3期目が可能であれば再選を狙いたいであろう。3期目でなくても、もし2~3年の任期延長ができるのであれば、その可能性を探ってみたいと思って不思議ではない。側近たちが彼の意を汲んで、突破口を見出そうとしていることも理解できよう。
 昨年1月には投資相が選挙延期案を打ち上げた。同年3月には経済調整相が3期待望論を披露した。続いて、ジョコウィの右腕の海事・投資調整相が、選挙延期を望む世論のビックデータがあると主張した。
 こういった動きは、市民社会の猛烈な反対を受けてしばらく沈静化していたが、最近になって再び活発になっている。今月1日のマーフッド政治・法務・治安調整相の発言が象徴的だ。「政党党首たちが任期延長論を話合うのは自由だ」と彼は「言論の自由」をアピールした。
 モグラ叩きのように、出たり引っ込んだりする任期延長論に対し、知識人や学生らは警戒を強めている。ジョコウィは強引に任期延長する準備をしているのではないか。そういう懸念が広く聞かれる。
 しかし、冷静に考えれば、任期延長など、ほぼ不可能に近い。その決定的な理由は「2期10年」という制限を外す憲法改正が必要だからだ。その改正は国民協議会が行うものであり、主要政党の圧倒的な支持がなければ不可能である。
 まずメガワティ率いる与党第一党の闘争民主党が明確に反対している。メガワティは先月ジョコウィに面と向かって「2期までよ」と釘を指した。また国防相のプラボウォ率いるグリンドラ党も反対だ。彼は次期大統領候補であり、選挙延期など論外だ。アニス・バスウェダン前ジャカルタ特別州知事を大統領候補に擁立するナスデム党も当然反対だ。ジョコウィが彼らを説得できない限り、任期延長など夢物語でしかない。
 そうだとすると、本気で任期延長を画策している可能性は低い。むしろ今は別の目的があると考えても不思議ではない。それは、ジョコウィがメガワティに仕掛けている心理戦にも思える。
 任期延長の政治工作が加速するほど、メガワティはそれをねじ伏せようという動機に駆られよう。ねじ伏せるためには、彼女が人気の高い大統領候補を擁立することを発表し、選挙モードに突入すればよい。そうなれば、世論も政界も任期延長論への関心は吹っ飛ぶ。政治は大統領選挙に向けて疾走していく。
 ジョコウィは、ガンジャル中部ジャワ州知事を次期大統領候補として擁立する決定を焦らしているメガワティに対して、これまで様々なジャワ的な圧力をかけてきた。そして今、自らの任期延長論をも使ってメガワティの政治判断を誘導しようとしているフシがある。策士の次の一手は如何に。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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