政治化する憲法裁判所

 政治学に「政治の司法化」という概念がある。司法過程や裁判所の判決が、政治的な影響を増している状況を説明する概念だ。インドネシアでも、憲法裁判所の政治的影響力は強い。大統領選挙の度に集票結果が争いとなり、最後は憲法裁判所で白黒決着つけてきた。「法の支配のガードマン」、さらには「民主主義の守護者」として、象徴的な役割を果たしてきたといえよう。
 その憲法裁判所の独立性が、いま大いに懸念されている。きっかけは2つある。ひとつは昨年5月の、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の妹と憲法裁判所長官との電撃結婚だ。大統領と司法機関トップの兄弟化は、利益相反の疑いを持たれかねない。
 もうひとつは、昨年9月に起きた国会による憲法裁判所判事の任期中解任だ。この判事の任期は2029年まであったものの、国会は彼を解任した。理由は、国会が任命した判事であるにも関わらず、国会が作った法律を違憲としたからだという。しかし、その理由で判事を解任できる法的根拠はなく、国会の決定は限りなく違法だ。これがまかり通れば、「言うことを聞かない奴はクビ」という圧力が判事に伸し掛かり、裁判の中立性が危ぶまれる。
 ちなみに憲法裁判所の判事は9人いる。大統領の任命で3人、国会の任命で3人、最高裁の任命で3人という構成になっている。大統領の妹と結婚した憲法裁長官は、最高裁任命の一人だ。ここに勢力均衡の崩れと、露骨な政治圧力が加わった今の憲法裁判所の実態がある。
 政権と与党連合は、この状況を作って何をしたいのか。おそらく国民受けの良くない法律を、憲法裁判所に提訴されても負けない仕組みを整えたいのだろう。それは「法の支配のガードマン」に取って代わって「俺が法だ」と宣言するに等しい。
 例えば先月30日に大統領が出した雇用創出法に関する代替政令がある。これに対し、今月5日、反対する市民団体や学者たちが、政令は憲法違反だと主張して違憲審査を請求した。
 また、先月6日、国会は刑法の改正案を可決した。猛烈な抗議活動が各地で繰り広げられたが、政権側は「不満があれば、どうぞ違憲審査請求してください」と反論してきた。
 この2つの例から見えてくるのは、雇用創出法にしろ、刑法改正にしろ、不十分な議論で立法化した責任を政府も国会も認めることなく、「不満は裁判で聞きます」という、「政治争点の裁判化」であり、憲法裁判所の政治利用であろう。
 判事に政治圧力をかけ、裁判所の中立性を弱めておいて、社会の政策批判を司法の場に閉じ込めていく巧みな戦略は、ジョコウィ政権下で開発された政治テクニックであり、それを武器に今年も「雑い立法」が幅を利かせていくことが予想される。
 今年の後半は選挙モードに突入する。選挙関連法も多数出てくる。中でも興味深いのは、憲法の規定で3期目はない大統領の任期も、副大統領としてなら出馬可能という法解釈だ。その審査請求が憲法裁判所に出されている。昨年11月、同裁判所は、書類不備を理由に、その審査請求を受け付けなかった。しかし、内容自体に問題ないとの考えを示唆した。今年、書類不備のない審査請求が出てきたとき、どういう判決を下すのか。その判決次第で、選挙ゲームの構図も大きく変わってこよう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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