アニス人気上昇の背景

 今月初め、世論調査会社インディカトルが興味深い調査結果を発表した。次期大統領候補として、アニス・バスウェダン前ジャカルタ特別州知事の人気が急上昇しているとのことである。
 世論人気のトップ3人は常に不動だ。支持率順ではガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事、プラボウォ・スビアント国防相、そしてアニスという並びが長く続いてきた。しかし、11月の調査ではアニス支持がプラボウォ支持を上回り、トップのガンジャルに肉薄している。数字で見れば、ガンジャル支持の33・9%に対してアニス支持が32・2%。これはもう誤差の範囲内ともいえる。
 なぜアニス支持が高まっているのか。理由は明らかで、アニスだけが全国各地で自分を売り込むキャンペーンを展開できているからだ。彼は10月の州知事任期満了と共にフリーとなり、自由に全国遊説ができる立場を得た。ジャワ島内はもちろん、アチェ、北スマトラ、西スマトラ、リアウ、パプア、中部スラウェシ、南スラウェシなどを訪れ、各地で大統領候補としてのお披露目を行ってきた。それを通じて、生のアニスに接し、彼のスマイルとソフトな語りに魅了される市民も少なくない。前ジャカルタ知事は、早くも全国区の人となり、それと共に人気も支持率も高まっていく。
 他方、ガンジャルにせよプラボウォにせよ、現職の縛りがあり、勝手に地方遊説などに行けない。さらにガンジャルは、まだ正式に出馬の意思も示すことができていない。所属する闘争民主党では、党首のメガワティが大統領候補を選ぶことになっているからである。
 こういう条件の違いをみると、現在のアニス人気の上昇は、ある程度想定範囲内の現象だと理解できる。実際、闘争民主党の幹部には、「選挙はまだ先だ、来年の今頃には我々の候補がアニスを大きくリードしているはずだ」との楽観視が強い。そう考える根拠として、アニスの地方遊説を現政権が効果的にブロックできると信じているフシがある。
 例えば、各地の闘争民主党系の州・県知事と市長が、アニスの企画するイベントに対して自治体施設の使用許可を出さない。さらには、今年と来年で全国271の地方首長が任期満了となり、彼らの代理を内務省が任命しているが、その首長代理たちにアニスの政治活動を妨害させる。こういう目論見が語られている。実際、アチェやジョクジャカルタ、その他の地方で、すでにこの手の妨害が始まっている。
 しかし、そういう姑息なやり方は、むしろ逆効果になりうる。現政権に邪魔されイジメられているという立ち位置は、被害者アピールにもってこいであり、世論の同情を集める格好のネタだ。アニス支持の上昇に焦って現政権が邪魔をしようとすればするほど、アニスのシンパとなる有権者も増えていこう。
 おそらくアニスも、その力学をわかっている。内心、「もっとイジメて」と思っていても不思議ではない。もしかすると、次の世論調査では、アニスとガンジャルの順位が逆転しているかもしれない。そうなればアニスの作戦勝ちだ。
 そのとき、メガワティの焦りはマックスとなろう。ガンジャル自身も、身の振り方で決断を迫られよう。この二人の思いが共鳴すれば、次期大統領選挙の大きな流れができる。その日が来るのも遠くなさそうだ。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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