政府に正義を求める学生たち 大統領任期延長に抗議

 新聞記者になってまもなく1年になるが、取材現場で政治圧力の怖さを知った。真の民主主義を勝ち取るため、祖国は今、産みの苦しみを味わっている。今はただ、そう思いたい。舞台は大統領任期の延長に反対する学生たちの抗議集会。銃口の前に立ちはだかった学生は政府に正義を求め、そして政治は腕力で彼らの口を封じた。この現場で経験した一部始終を敢えて再現してみたい。

 最初の抗議集会は今月11日、中央ジャカルタのスナヤン地区にある国会(DPR)前から始まった。正門ゲート前を埋め尽くした学生たちは、憲法の規定に反して2024年2月の大統領選を延期し、大統領の任期延長を模索する一部政治家の恣意的な動きに反発。「民主を守れ」と気勢を上げた。
 これに対して国会側は対話に応じる姿勢を見せた。スフミ・ダスコ・アフマッド副議長と国家警察のシギット・プラボウォ長官が学生たちに分け入って彼らの街宣車に乗り込み、ダスコ氏は「大統領任期を延長しないよう、要請は政府に伝える」と約束した。
 この直接対話は民主主義国家にふさわしい、誇るべき光景だと内心で思った。そして騒ぎがもう拡大しないよう、祈った。しかし、記者の期待は一瞬で裏切られた。学生たちに紛れ込んだアジテーターが、彼らを挑発し続けたのだ。
 抗議集会の空気が一変した。扇動的な怒号に触発されて学生たちは興奮。投石が始まり、誰が用意したのか、糞尿が入った瓶を警官隊に投げつけた。恐れていた事態となった。警官隊は学生たちを「暴徒」と見なし、治安維持を理由に反撃体制に入った。
 警官隊は放水に続き、容赦なく催涙弾を撃ち込んだ。学生たちはその銃口の前に立ちはだかったが、警官隊は容赦しなかった。催涙弾はわれわれ報道陣にも向けられた。学生たちに混じって記者もベンヒル方向に走った。目が痛み、呼吸が苦しくなってきたが、警官隊が迫っている。逃げるしかなかった。
 学生たちは八方に散り、警察署に火を放つなど午後8時過ぎまで抵抗を続けたが、もはやここまで。警官隊は力で学生たちをねじ伏せた。
 邪推かもしれないが、デモ鎮圧の筋書きは最初からあったのだろう。学生たちのデモを認めなければ、政権の言論統制と批判を受ける。そこで集会を条件付きで認め、一定のガス抜きをした上で国会や警察との対話もさせる。国民の声に耳を傾ける姿勢を政府がアピールする格好の場だ。
 しかし、混乱の拡大や政府批判は断じて受け入れられない。そこでデモ隊にアジテーターを送り込み、学生側の暴走を導きだし、治安維持を理由に力をもって封じ込める。そう考えてしまうと政治不信が募るばかりだが、現場を振り返れば学生たちの表情は真剣だった。政治意識の高まりを感じる。民主主義の定着と言えるかも知れない。
 ただ、まだその過程に過ぎず、私にはその行く末を伝え続ける責任がある。そのためにも学生たちを腕力で排除する警官たちの横顔、そして催涙弾が放つあの忌まわしい匂いを忘れてはならない。(センディ・ラマ、写真も)

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