政治色強まる国軍人事

 先月末に発表された国軍の人事異動が、軍内に限らず治安関係者の間でも大きな話題となっている。それは陸軍特殊部隊(コパスス)司令官の異動だ。コパススは、戦略予備軍(コストラッド)と並ぶ、軍の最精鋭部隊であり、陸軍兵士の士気高揚のシンボルでもある。そのため、司令官人事への変則的な政治関与は、軍内の士気を萎えさせるだけでなく、真面目な将校たちの政治不信を高めることとなる。
 その話題の中心人物がウィディ・プラセティヨノ少将だ。3月末の人事で、コパスス司令官から中部ジャワ軍管区司令官に異動となった。なぜこれが異例なのか。その理由は、彼がコパススを指揮したのが2カ月弱という、言ってみれば「腰掛け」のためにコパススが使われたことに他ならない。それを無礼や屈辱と考えるエリート将校たちに、政治不信が高まっている。
 なぜ「腰掛け」となったのか。それはジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が、ウィディの昇進を後押ししているからだ。精鋭部隊の司令官として少将に昇進させて〝箔〟をつけ、すぐにジョコウィの地元の中部ジャワ州に引き抜いて、息子でソロ市長のギブランのサポートに当てる。それだけジョコウィはウィディを信頼している。
 両者の関係は、ジョコウィのソロ市長時代に遡る。当時、ウィディもソロ軍管区の長だった。ここで交友が深まった。その後、ジョコウィが大統領になると、ウィディは大統領副官に抜てきされ、3年間を側近として過ごす。2017年から2年間は、ソロ拠点の広域軍管区の長を任され、ジョコウィ家の警護に注力した。20年には中部ジャワ州軍管区のナンバー2である参謀長に抜擢され、ギブランのソロ市長選挙を間近で見守った。
 このウィディが、突如として今年1月にコパスス司令官に任命され、3月にまた中部ジャワ州に戻って軍管区の司令官に就くという異例のスピード異動は、注目されて当然であろう。ここ10年のウィディの経歴をみても、コパスス畑からは程遠い。にもかかわらずコパスス司令官に仕立てたのは、彼を早期に准将から少将にランクアップさせるためである。
 ウィディは同期(士官学校1993年卒)の出世レースで2番手を走っている。同期のトップは20年に早々と少将になり、現在アチェ州軍管区司令官だ。それを追うウィディを、同期で2人目の少将に昇進させ、同じく州の軍管区司令官という「一国の主」を任せる。これがジョコウィの狙いであり、その結果、同期2人の地位と経験は並んだ。
 ジョコウィは、政権運営において、ソロ時代の繋がりを非常に重視してきた。彼のソロ・コネクションのメンバーは、要所要所でジョコウィの盾と矛となる活動を行ってきた。ウィディは、そのインサイダーのひとりだ。今後、中部ジャワに置いておくのか、中央に戻すのか。ここから先は同期だけでなく、上期の91年卒も入り混じった熾烈な出世レースになる。
 〝太いケツモチ〟を持つウィディが、これからのレースで有利なのは間違いない。ただ、それがゆえ、嫉妬や妬みや媚りが軍内で広がり、職業軍人としてのモラルが低下していくことを憂慮する将校も少なくない。
 軍が政治に介入してきたスハルト時代はもちろん危険だったが、今の時代、政治が軍内人事に介入して軍を政治のツールにしようとする傾向が強まっている。これはこれで危うい関係にならないか。心配は続く。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

メラプティ の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

ぶらり  インドネシアNEW

トップ インタビューNEW

有料版PDFNEW

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly