第2波を乗り越える政治力

 新型コロナウイルスの感染「第2波」が猛威を奮っている。毎日2万~3万人という新規感染者数が発表され、現在感染者数は全国で36万人に膨れ上がった。病床使用率も9割に迫り、病院の逼迫で自主隔離を強いられる患者が溢れている。
 去年の第1波では、「大規模社会制限」を発動し、地方首長らが人流を抑えるリーダーシップを発揮した。この第2波では、「緊急活動制限」が出た。今どういう政治力が期待されるのか。
 第一に、救済ファーストで行政手続きの簡素化を早急に実現する政治のリーダーシップだ。例えば、医師会は各地の病院が深刻な資金不足で呼吸器も看護師も補えない実態を訴えている。政府から病院への支払いが滞っていて、医療キャパの補充ができず、多くの命を救えない状況に陥っている。
 また低所得層へのセーフティーネットだけでなく、中低所得層の収入補償も必須だ。この国の労働人口の6割以上がインフォーマル雇用であり、有給医療休暇など稀で、休めば収入減でしかない。そのため、微熱があっても欠勤して病院で感染検査をする気にならない。こういう就業者層への収入補償が早急に行われないと、市中の人流抑制も難しい。これも行政手続きの簡素化という政治のリーダーシップが求められる。
 第二に、政治は懲罰的なメッセージではなく、「国民を守る」メッセージを前面に押し出すべきだ。緊急活動制限下では、軍や警察や知事らが街をパトロールし、違反者を罰する宣伝が目立つ。その結果、「政府対市民」の対立イメージが強まり、政府イベントを押し付けられている感がハンパない。その不信感は、当事者意識の低下と非協力を助長するだけだ。市民メッセージを戦略的に打ち出すことが政治に求められよう。
 第三に、政策目標と手段の整合性を合理的に示す政治のリーダーシップである。それは社会の信頼と支持を持続的に確保する源に他ならない。緊急活動制限は、一日あたりの新規感染者数を1万人まで下げる目標を掲げる。だが、そのための手段が腑に落ちないという批判が多い。
 例えば1万まで下げるため、人流も50%まで落とすと訴えるが、バスや電車の乗車率は7割まで認めている。第1波のときの5割制限より緩い。
 内務大臣指示でも、PCR検査を増大し、感染者を炙り出して陽性率を今の25%から5%まで下げる必要を訴える。しかし、検査キャパに欠ける地方が圧倒的に多い実態をどう克服するかは示されない。西ジャワ州には一日10万件の検査が指示されているが、現場では能力的に5万件が限度だという。
 こういう目標と手段のギャップが顕著な限り、政策不信は拭えず、社会支持の確保も難しい。それを反映してか、政府に頼らない市民の支援ボランティア活動が活発になっている。「#Warga Bantu Warga(助け合う市民)」で結集する市民が、自主隔離の患者たちを懸命にサポートしている。こういう運動を積極的にバックアップするのも政治の責務であろう。
 第2波の危機を打破する政治力の発揮。今それが大いに試されている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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