カンプンの名工を訪ねて こだわりの銀細工職人  西ジャワ州プルワカルタ

 イスラム教の先生から、西ジャワ州プルワカルタ県の集落(カンプン)に、腕のいい銀細工職人がいると聞いた。「カンプンの名工とは?」「どんな銀細工を作る?」——。気になり始め、さっそく現地に行ってみることにした。

 銀細工職人の店舗は、プルワカルタ駅からジャカルタ方面に向かう線路沿いの道を歩いて約15分の場所にある。筆者が住む同州ブカシ県チカランの家からはオートバイで2時間ほどかかった。
 ところが、ようやく探し当てたお店は閉まっていた。近くにいたオートバイタクシー(オジェック)の運転手に聞いてみると、店舗は新型コロナウイルスの影響で休業中らしい。ただ、工房は開いているらしく、訪ねてみることにした。
 店舗から工房までは歩いて約2分。目と鼻の先だった。クムニン通りにある工房に入ると、指輪を作る銀細工職人のユヌスさん(51)の姿。彼が手にするバーナーからは勢いよく炎が噴き出し、工房の中は熱気に包まれている。それでもユヌスさんの集中が途切れることはない。
 休憩の時間になると、ユヌスさんはブラックコーヒーを飲み、丁子たばこ(クレテック)を吸う。「私は1985年から銀細工を作っている」。ゆっくりと語り出した。
 ユヌスさんによると、銀細工の値段は作品の難易度、つまり細かさなどによって変わる。平均すると、15万~50万ルピア。中には100万ルピアを超える作品もあるらしい。指輪以外にも、ネックレス、ペンダント、イヤリングやブレスレットも作る。「自分のために銀細工を買いに来る人もいるが、商売目的の人もいる」という。
 ユヌスさんの工房では、銀細工の製作過程を見学することができる。「一番大切なのは、品質を守り続けることと、客の要望に従うこと」。ユヌスさんによると、工房を訪れる客は1日に5~7人。しかも、地元だけでなくジャボデタベック(首都圏)からもやってくる。いや、コロナ禍の前は遠くオランダや香港からもバイヤーが訪ねてきたそうだ。「私の銀細工を買い求め、遠方からやってくる客がいる。だから、銀細工作りにも熱が入る」。
 取材途中も客は途絶えない。居合わせた西ジャワ州カラワン県から来たというドディ・ジュナエディさん(40)は、「私はユヌスさんのファン。彼の銀細工には欠点がなく、モチーフも素晴らしい。手が届く値段であることも魅力の一つだ」と話した。
 インドネシアにはユヌスさんのようにこだわりを持ち、匠の世界で淡々と作品を作り続ける職人がたくさんいる。しかし、その多くは注目されることもなく、人知れず作品作りに精を出している。もし政府がユヌスさんのような職人を育て、彼らの技を世に伝えることができたなら、インドネシアの魅力は増すだろう。インドネシアの伝統文化を、ワヤン(人形の影絵芝居)やバティック(ろうけつ染め)に独り占めさせておくのはもったいない。(センディ・ラマ、写真も)

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