米国とインドネシアの政治病

 先週、米連邦議会にトランプ支持者が乱入して暴動になった事件は、世界を驚かせた。選挙の敗北を認めない勢力が、暴力で民主政治を壊そうとする。米国の政治亀裂の深刻さを強く反映した事件だった。
 インドネシアでは、こういう騒乱は珍しくもなんともない。2014年の大統領選挙では、敗北を認めないプラボウォ支持勢力が、装甲車まで動員して憲法裁判所に押しかけた。その5年後の大統領選挙でも、負けたプラボウォの支持勢力は、選挙結果を認めず、ジャカルタは暴動となった。「選挙結果で暴れる」というのはインドネシア政治の「あるある」の代表である。
 選挙後に仲良くなるのもインドネシアの「あるある」だ。プラボウォは、あれだけジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領を否定してきたにも関わらず、今では国防大臣としてジョコウィに仕えている。米国で、トランプが次期バイデン政権に参画するようなもので、そんなことはありえない。
 「インドネシアの民主主義はゴトンロヨン(相互扶助)です」。そういって当時のジョコウィはプラボウォの内閣入りを正当化した。昨日の敵は今日の友。それが成熟した民主政治のあり方だと彼は主張した。
 プラボウォが骨抜きとなった今、インドネシアは米国みたいにはならないという楽観が政界で聞かれる。確かにプラボウォという右翼ポピュリストの挑戦は不発に終わり、彼に代わるシンボルは見当たらない。
 しかし、そのことは、プラボウォを支持してきた多くの有権者と、ジョコウィ支持者たちとの和解が進んでいるということではない。むしろ逆だ。ジョコウィ信奉の強硬勢力は、今こそ反ジョコウィ勢力を一掃するチャンスといきり立っている。その象徴的なターゲットがイスラム擁護戦線(FPI)である。
 このイスラム強硬派勢力の去勢が、今かなり手荒に行われている。組織は非合法化され、解散を強いられた。司法の判断を仰がず、ときの政権が独断で社会組織を解散させる。その法的根拠は一応存在するにせよ、集会結社の自由を保障する憲法的には限りなくグレーだ。
 世論支持を誘導するために、FPIは過激なテロ組織とつながっているとか、コロナ対策を無視してきたとか、風評の連発で「悪魔化」が進んでいる。それと共鳴して、各地の大学では「反過激主義」の名目で、政府に批判的な学生を自治会幹部から排除する動きが加速している。これが続くと学生運動も去勢されていくだろう。
 ゴトンロヨンの美徳をアピールするインドネシアの民主政治は、エリートには優しいが、反抗する社会勢力には容赦ない。その二面性が顕著な今の状況は、確かに米国のような右翼ポピュリズムの病理は薄れたにせよ、敵対勢力を問答無用で潰す「スハルト病」に感染している可能性が否めない。米連邦議会暴動事件は、それを強く意識させるものとなった。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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