PSBBをめぐる政治

 ジャカルタのアニス州知事は、先週水曜日(9日)の会見で、6月から続く大規模社会的制限(PSBB)の緩和を止めると発表した。つまり規制強化に踏み切る判断である。その開始日を14日に設定した。
 この判断に、疫学専門家や医療関係者の多くは支持を示している。彼らは、そもそも6月の緩和が間違いだったという。
 4月のPSBB導入の際、ジャカルタの感染者数は300人ほどだった。今では千人超えが毎日続いている。
 陽性率も3月ごろは6%程度だったが、今では10%超えが続く。感染死亡数も増加の一方である。
 極めつけは医療体制の逼迫で、もうすぐ隔離病棟の病床は満杯になり、12月には病院もパンクするという。これらを理由に、アニス州知事は規制強化の必要性を訴えた。
 それにかみ付いたのが中央政府である。経済打撃を懸念するアイルランガ経済調整相やルフット海事・投資調整相は、すぐに異論を唱えた。勝手な判断は国民のパニックを招くとし、中央政府との調整ができていないことに批判を呈した。
 闘争民主党も露骨にアニス批判をぶち撒けた。勝手な発言で株式市場を混乱させ、株価を5%も急落させたと非難する。
 その勢いで、ジャカルタの感染拡大は州知事の責任だと批判する。例えば、市中で保健プロトコルを徹底できていないのは州政府の無能の表れで、そのトップは責任を取れと主張する。
 また州政府が交通規制を強化して「奇数偶数制度」を再開したため、公共交通機関の乗客が増えてクラスターが発生したとし、再開を決めた州知事の責任は大きいと批判する。
 真偽のほどはさておき、この中央政府とジャカルタ政府の不協和音は、政治的な対立を色濃く反映している。ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は、アニス氏の世論人気を強く警戒してきた。次期大統領選の有力候補の一人だからであり、現政権への批判勢力が結集する中核になる可能性があるからである。
 その警戒心から、アニス氏の一挙一動を注視し、彼がジョコウィ政権批判を匂わすたびに、「逆ギレ批判返し」を展開する政治が繰り広げられてきた。今回もそのパターンである。
 ただ、経済よりも感染防止を優先させるアニス氏の株が上がるのを警戒するがあまり、彼への「いじわる」がエスカレートしていくと、国にとっても残念な事態を招きかねない。
 今回もアニス氏は、PSBBの再強化を一緒にしようと隣接の自治体首長に呼びかけているが、みな慎重である。中央政府のアニス批判を見れば躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。
 とはいえ、ジャカルタだけ規制強化しても効果は限定的だ。ジャボデタベック(首都圏)は一体の空間である。各首長の権限を超えて、協力を促せるのは大統領しかいない。政治対立を超えたリーダーシップが期待されている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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