ろう者のカフェ「コプトゥル」 ふれあいの場づくり 手話で注文
南ジャカルタに聴覚障がい者が働くカフェがあると聞き、コーヒーを飲みに行ってみた。ガラス張りのドアを開けると、「スラマット・シアン!」という明るい声と笑顔が迎えてくれる。光がやさしく差し込む店内の壁には、ヘレン・ケラーなど障がいを持ちながら世界で活躍する有名人の写真が飾られている。
カフェ「コプトゥル」の店員6人は全員耳が不自由だが、客の口の動きを読み取ったり、手話や筆談を使って注文をとり、飲み物を提供する。カップには、インドネシア式のアルファベットの手話がプリントされており、カフェに来た人は飲み物だけでなく、手話を使ったコミュニケーションが体験できる。人気の商品は、アボカドコーヒー(コス・シプット)と黒糖コーヒー(コス・ウィングス)だ。
西ジャワ州デポックで2018年5月、プトリ・サントソさん(29)は、2人の聴覚障がいをもつ友人とカフェ事業を立ち上げた。仕事を探すものの、障害が理由で500社以上から不採用が続いたことがきっかけだ。その後同年11月に南ジャカルタで2店舗目をオープンし、障がい者雇用創出と偏見の緩和をめざす。
プトリさんは、「ろう者と健常者がふれあえる居場所を作りたい」と手話で語る。
店員のアルディラさん(30)はインスタグラムでこの仕事を見つけた。「障がいを負っているということを理由に、インドネシアでは仕事に就くのは難しい。ここで働き始めてから、日本人のお客さんからありがとう、という手話を教えてもらった」と、国や障がいの壁を越えた友情が生まれたことへの感動を話した。
同じビルの3階では、他団体による手話講習も不定期で行われている。
▼日本のAI技術で雇用創出に期待
16年、障がい者法に基づいて企業は雇用における差別の禁止と、障がい者の採用が義務づけられた。しかしながら研修に対する助成金や支援などはなく、ろう者に雇用の機会を与えることは必要不可欠だ。
プトリさんは「日本の技術を応用した翻訳機などを導入できたらいい。これからはアジアに事業を展開していくのが目標。ブルーボトルコーヒーのように日本にも出店したい」と夢を語った。
ジェスチャーや手話に加えて、スマートスピーカーなどAI(人工知能)を活用した音声認識技術を導入できれば、世界中のお客さんを迎えられる。日本のAI技術が、日本とインドネシアをつなぐ架け橋となり、多くの障がい者がハンディを感じることなく働ける日常生活を送れる日が、そう遠くない未来に実現するかもしれない。
ことしは東京オリンピック・パラリンピックが開催される。手話を学びながら障がい者とふれあう楽しみを見つけに、コピトゥルを訪れてみてはいかかだろうか。(佐藤裕菜、写真も)