【メラプティ】ジョコウィの選択

 現職のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領、それに挑むプラボウォ・スビアント氏。来年の大統領選挙の立候補者が確定した。2人の対決は2014年のリマッチとなる。しかし両者とも副大統領候補が前回とは違う。ジョコウィはマアルフ・アミン氏をペアに選んだ。その意味を考えてみたい。
 先月の本コラムで指摘したように、ジョコウィの副大統領候補をイスラムに強い人物にする構想は、すでに固まっていた。それは統一地方首長選挙の教訓だ。具体的には3人に絞られていた。そこから誰を選ぶか。ジョコウィの判断に影響を与えようと、水面下で熾烈(しれつ)な駆け引きが繰り広げられていた。
 最後に抜きん出たのが2人。1人がマーフッド元憲法裁判所長官。彼はインドネシア・イスラム大学の法学教授でもあり、メディアでも率直な発言で国民の広い層に人気のある知識人だ。ワヒド政権下で大統領の右腕として大臣も務めた。その宗教的な立場、要職経験、お茶の間の知名度で、世論調査はマーフッド支持が圧倒的だった。
 ジョコウィは「世論の力」で大統領になっただけあり、世論調査を重視してきた。その感性に沿ってマーフッドにするという発想があった。しかし同時に別の発想も脳裏にあった。ジョコウィ再選で合意する六つの政党の党首たちが納得する副大統領候補を選ぶという発想だ。彼らが納得しなければ、連立はご破産となりかねない。そういう事態は避けたい。
 その文脈で優位に立ったのがマアルフである。彼はインドネシア最大のイスラム社会組織であるナフダトゥール・ウラマ(NU)の総裁だ。同時にイスラム保守勢力の集まるイスラム学者会議(MUI)の議長でもある。肩書からしてイスラム色満載。発言力も強く、彼に文句をいう度胸のある人は政界には少ない。
 マーフッドかマアルフか。最終的にジョコウィは奇妙な決断をした。それは両者を提示するという技だった。まず8月8日の夕方に、マーフッドに準備を求め、翌日には正式発表すると伝えた。マーフッドは自分が選ばれたと知り、早々にメディアに喜びを語っていた。だが9日昼過ぎに行われたジョコウィと連立与党党首たちの会談では、党首たちがマーフッドを拒否したとして、結局マアルフで全員が合意したという話になった。ジョコウィは、自分がマーフッドを切ったわけでなく、マアルフを避けたわけでもないという演出をしたのである。きわめてジャワ的な権力運営といえよう。
 マアルフはNUやMUIを通じた選挙活動を期待されている。対抗馬がイスラム勢力を動員して反ジョコウィ運動を展開するのを見越しての策だ。確かに選挙では効果を発揮するだろう。しかし、その後の5年を考えたとき、果たしてこの選択は何をもたらすのか。イスラム保守勢力の主流化が一歩進むという懸念はもっともであろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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