【アルンアルン】岐路に立つジョコウィ外交

 「自主と積極」。独立以来、インドネシアが守り通してきた外交原則である。つまり、特定の国との同盟関係に依存することなく、大国からの干渉を排除して外交の「自主」性を維持すると同時に「積極」的な外交を展開することでインドネシアの国際的な地位を高めていこうというのである。
 この外交原則の下で、歴代の大統領は国際社会におけるインドネシアの存在感を維持してきた。ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領も、「自主と積極」の外交原則を基本的には継承している。しかしジョコウィは、これまで重視されてきた多国間外交にはあまり興味を示さず、国際協調よりも国益の追求を重視して経済外交を中心に据えるなど、外交方針の転換を図っている。
 政府がこの経済外交を進めるにあたって準拠するのが、ジョコウィの目玉政策である「海洋国家」構想である。その内容は多岐にわたるが、その中心は海洋資源と海洋インフラの開発にある。
 そこで最初に実行されたのが、水産資源の保護と水産業の振興を目的とした密漁対策であった。起業家出身の女性大臣スシ・プジアストゥティ海洋水産相が主導して「違法・無報告・無規制」漁業の取り締りが強化され、密漁船が次々と拿捕(だほ)された。しかも、スシ大臣は、拿捕した漁船は爆破沈没させる措置を断行し、これまでに170隻以上を海に沈めた。
 しかし、この密漁船取り締り政策は、周辺国との関係に影を落としている。送り出し国であるタイやベトナムからは、その扇動的なやり方に対して強い懸念が示された。そして今回、インドネシア政府当局がリアウ諸島州周辺のナトゥナ海域の排他的経済水域で拿捕した中国漁船を、中国の巡視船が実力で奪い返すという事件が発生した。
 スシ大臣はこれに対して即座に反発し、中国政府の行動を「傲慢(ごうまん)だ」と強く非難した。実は、過去に同様の事件が2度ほど起きていたが、事を荒立てたくなかった両国政府はこれを公表してこなかった。しかし、正義感の強いスシ大臣はこれを諾とせず、中国に「大国」らしい行動を求めた。
 これに対して、ジョコウィ大統領は、ナトゥナ海域における海軍力増強の方針を示すと同時に、「中国は友人である」として密に意思疎通を図るよう関係閣僚に指示した。重要な経済的パートナーである中国との関係悪化は避けたい、との思惑がその背後にはある。
 これまでインドネシアは、南シナ海の領有権問題に直接関係しないため、東南アジア諸国連合(ASEAN)における「良き仲介者」として「積極的に」振る舞ってきた。また、交渉を通じた対立の解消と、国際法に基づいた行動の遵守を求めることで、大国が地域に介入することを回避し、「自主」を維持しようと努めてきた。それによってインドネシアは、自らの外交力を高めてもきた。
 しかし、ジョコウィ政権の密漁対策と中国の海洋進出が、互いの「主権と国益の維持」をめぐってナトゥナ海域で衝突することが今回明らかになった。外交に熱心ではないジョコウィ大統領も、そろそろ本腰を入れて問題に取り組まなければならない時期が来た。(JETROアジア経済研究所・川村 晃一)

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