サンゴの海へ 私をダイブに連れてって 北スラウェシ州ブナケン島

 ブクブクと自分の吐いた泡が上っていく。体は逆に沈んでいく。耳が痛くなる。マスクの上から鼻を抑え、耳抜きをする。水深15メートル。ドロップオフの先は黒い。崖はサンゴ礁で覆われていて、無数の魚が泳いでいる。そう、この感覚。海だ。海に戻ってきた。

 ダイブ歴は20年以上あるけれど、ここ2年は潜っていない。インドネシアのダイブスポットについて尋ねると、多くの人が「ブナケン島でしょ」と答える。
 旅行ガイドにも「千メートル以上も落ち込む世界有数のドロップオフ」とある。年末年始をブナケン島で過ごすことに決めた。
 ネットで検索すると、1泊3食付き25万ルピアというロッジが見つかり、メール対応も丁寧だったので即決した。ジャカルタからマナドに飛び、空港から港へ。港からは小型ボートで40分で着いた。
 ボートを操縦するイスマエルさんが「ここからは歩いてくれ」という。まだ、岸までは100メートル以上ある。「引き潮なんだ」と言って、荷物のスーツケースとリュックを担ぎ、遠浅の海の中を歩いていく。ジーンズを膝までたくし上げ、こちらも続く。スーツケースはダイビング機材などで20キロある。「大丈夫か」と声をかけると、「アイム・ストロングマン」と言ってさっさと浜に上がってしまった。

■5年滞在のドイツ人
 ダニエルズ・リゾート&イマヌエル・ダイブセンターにはコテージが約30あり、13人が滞在中。ドイツ人が最も多く、オランダ、スペイン、ベルギー、オーストラリアの各国から来ていた。レストランに行くと、美しい水中写真が壁にずらりと並ぶ。5年前からここで長期滞在を繰り返しているドイツ人フォトグラファー、ハンス・ブローダーさん(64)がすべて撮影したという。「ほら、あの人だよ」とテーブルで相席になったドイツ人男性が教えてくれた。
 ブローダーさんはプロの写真家で、写真サイトに自分の写真をアップし、売れればその分の収入がある。今や水中写真の世界では相当有名らしい。驚くことにダイブを始めたのはわずか5年前。それまで弁護士をしていたが、リタイアしてベトナムに移り住んだ。ブナケン島に遊びに来て、一度潜って、ダイビングにはまる。その時に海中でマグロの大群を見たという。「50メートルも続く、すごい大群だった」と話す。ところが、誰もその話を信じてくれない。悔しくて写真を撮り始めたという。
 以前はアパートのあるベトナムを拠点としていたが、最近はブナケン住まいが長くなった。ダイブ歴は短いがダイブ本数は既に千以上、あっという間にスペシャリストになった。「結構忙しいし、年取ってる暇ないよ」と笑う。毎晩のようにブローダーさんは、パソコンで海中の写真や動画を宿泊客に見せてくれる。

■日本人は働き過ぎ
 リゾートはブナケン島出身のダニエルさん(68)が20年前に作った。長女は日本人のエンジニアと結婚し、東京都世田谷区で暮らしている。2011年3月、孫に会いに日本に行き、長女宅の近くのアパートにいたとき、東北大震災が起きた。
 「あの揺れはさすがにすごかった。アパートを出て、近くの畑に避難したら、日本の人もみなやってきた」と話す。娘婿は早朝出社し、深夜帰宅する毎日と長女から聞かされ、ショックを受けた。「娘は、日本では当たり前という。でも、日本人は働きすぎだ。別の日本人から、日本の勤勉さを見習えと言われたが、日本人はインドネシア人のようにリラックスすることを見習うべきだと言ってやった。あなたはリラックスできた?」と笑った。
 潜ったのは計4回。ウミガメと鉢合わせしたのは3回目のダイブだった。出発の朝、ダニエル夫妻が見送りに来てくれた。来たとき同様、引き潮。夫妻はパンツ姿で船に向かう日本人に手を振り続けてくれた。(田嶌徳弘、写真も)

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