「故郷の生活返して」 シーア派信者強制移転 排斥の「前例」危惧も

 20日に治安維持を理由に、故郷の東ジャワ州マドゥラ島から強制的に移転させられた少数派のイスラム・シーア派信者176人が同州シドアルジョの州営住宅で不安を抱えながら生活を送っている。県政府からは帰郷を禁じられ、中央政府も移転を評価し、信者の意思を無視するかのような姿勢が目立つ。今回の「前例」が少数派排斥の風潮を助長させる可能性もある。

 「お金がない。村へは帰れない。どうやって生きればいいのか」。信者の一人、ウマムさん(40)はつぶやく。昨年8月、国民の多数派であるスンニ派の中でも、急進的な信者たちの襲撃で家を焼かれた。土地を除けば唯一とも言える財産だった牛一頭は生活のために100万ルピアで売却した。その金も生活費に充て、底を付いた。信者はほとんどが農民。「今さら他の地で、別の仕事ができるわけがない」
 信者らによると、20日、マドゥラ島内にある避難所だったサンパン県のスポーツ施設を約千人の移転賛成派が取り囲み、州が移転を迫った。信者は拒否したが引っ張られるなどしてバスで移転させられた。東ジャワ州のスカルウォ知事は「(シーア派信者の)安全のためで追放ではない」と強調した。
 スポーツ施設では多いときで300人ほどが約9カ月暮らしていた。現在、州は農業複合施設の住宅を仮住まいとして提供している。州は家族ごとに電気、水道付きの部屋を用意し、食事は1日3回無償提供。州によると医療スタッフも5人常駐。近いうちに子どもは通学できるようにするという。
 サンパン県では、5月1日に食事など必要物資の提供が中止され、1人75万ルピアを渡された後、島外に「追い出された」。現在の厚遇は、信者らの意に反した移転に対する不満や「宗教問題と治安問題をすり替えている」との批判を和らげたいという州の意図が見え隠れする。
 州に歩調を合わせるようにして、閣僚らからも、次々と信者が安全であることを理由に移転を支持する声が上がっている。ジョコ・スヤント政治・法務・治安担当調整相は21日、「以前に比べて今は生活環境が整っており安全である」として容認する姿勢を見せた。マルズキ・アリー国会議長(民主党)、ガマワン・ファウジ内相も移転に賛成する意向を示した。
 信者のイクリル・アル・ミラル代表は「確かにスポーツ施設より環境は良くなった。しかし私たちが求めているのは不自由のない生活ではなく生まれた土地で暮らすことだ」と語気を強める。
 法律擁護協会(LBH)のスラバヤ支部のファイク・アッサディキ氏は地元紙に対し、移転は「他のシーア派コミュニティや少数派グループへの差別の先例になる」と警告している。(東ジャワ州シドアルジョ県で堀之内健史、写真も)

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