「通貨安、インフレとの戦いに」 マクロ経済は堅調も 今年のインドネシア経済 三菱東京UFJ銀 田中亘支店長に聞く

 内需の拡大を背景に投資ラッシュが続き、めざましい成長を遂げた昨年のインドネシア経済。一方で、大幅賃上げや翌年の選挙を控えた政策の停滞などの懸念も頭をもたげ始めている。2013年はどうなるのか。毎年恒例の新年インタビューに応じた三菱東京UFJ銀行ジャカルタ支店の田中亘支店長(53、本店執行役員)は「マクロ経済は引き続き底堅く、直接投資も続くだろうが、ルピア安、インフレとの戦いを強いられる年になる。政府がその対応を誤ると、これまでの新興国の優等生ぶりに傷が付くことになる」と分析し、堅調な経済成長は続くとしながらも警戒が必要との認識を示した。
 
 昨年1年を振り返り、「マクロ経済は絶好調で、新興国の優等生ぶりを大いに発揮。成長率も6%台で物価もうまく抑えた。投資は日本からだけで前年の6割ほどの増加となる2千億円近くになり、昨年話した(12年1月31日付紙面)ように、まさに投資実行の年になった」と評する田中支店長。
 今年は「成長率も昨年と同程度になるとみられ、結果としては順調な成長を続けていくことになるだろう」としながらも、昨年から続くルピア安と、賃金上昇なども背景としたインフレを懸念する。
 世界経済の低迷で資源を中心とした輸出が伸び悩む一方、国内消費の拡大により工業製品やエネルギーの輸入は増加の一途をたどっており、貿易赤字がより定着するようになると予測。直接投資の勢いは今後も続き、経常収支の赤字をカバーする形で底支えするが、日本の自動車関連企業の投資が今年半ばで一段落することが心配の種だ。
 「次の投資がどうなるかは、アジア域内や国際戦略の中でどうするかというテーマになってくる」と指摘。「中国の政治リスクが改めて脚光を浴びることで、投資がASEAN(東南アジア諸国連合)に回ってくるのは揺るぎのない事実だが、有力候補だったインドネシアも、賃金上昇などを考えると企業経営者も疑問を持ち始めている」との懸念を見せた。

■国際分業進めるタイ
 その中で、タイが国際分業をうまく進め始めていると指摘する。「タイの労働コストはインドネシアに負けないぐらい上がり、労働需給関係はタイト。しかし、インドシナの物流網が整備されてきており、ミャンマーやカンボジア、ラオス、ベトナムなどに労働集約的な部分を移しながら、最終的にタイが吸い上げていくようなビジネスモデルができつつある」「かたやインドネシアは、ジャカルタ一極集中でジャワ島でも物流網が整わず、インフラがぜい弱。労働力は豊富で、賃金上昇は西ジャワだけが突出し、全土ではまだ安い賃金の地域も多いが、それを有効に使える仕組みがない。せっかくのチャンスだが、タイを優先に投資が進むシナリオも出てきた」

■2段ロケット点火を
 来年で2期10年の任期を終えるユドヨノ政権について、「安定した経済成長を続けてきたのは揺るぎない事実で、『黄金の10年』というにふさわしい」と位置付ける。
 ただ、次の10年がどうなるかは今後の政府の取り組み次第と田中支店長。「例えるならば、1段ロケットは極めて効率良く燃焼したが、新興国から中進国、先進国入りを狙うためには2段ロケットに点火する必要がある。各国が体験した『中進国の罠』が急速に現実のものになってきていて、中進国になるためには、大きな国家戦略を作って政府がそれを効率良く実行していく仕組みや、素材産業などを含めた、より付加価値の高い産業構造が必要になる」と提言した。

■より地元にコミット
 今年で支店開設45周年を迎える三菱東京UFJ銀行。今後の事業展開について、「日系企業が数多くインドネシアに進出し、事業基盤を築こうとしている時にメガバンクの一行として最大限サポートするのが第一」と強調。また、「45年の歴史の割にインドネシアへのコミットという点ではまだまだ。外貨需要の大きな部分を担ってはいるが、地場企業のさらなる取引拡大などが次のミッションになる。最近は日イのビジネスマッチングにも力を入れており、双方の間に立って多くのビジネスの可能性を模索できる土壌を提供したい」と意気込んだ。(上野太郎、写真も)

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