フリーポート 労使紛争泥沼化 警察がデモ隊に発砲 労働者1人射殺 パプア州ティミカ

 世界最大級の米系鉱山会社フリーポート・インドネシア社の労働組合員ら八千人は十日、パプア州ティミカ市街で大規模な賃上げ要求デモを実施、出動した治安部隊と衝突し、被弾したデモ参加者一人が死亡、警官を含む計十三人が負傷した。労組は九月中旬からストライキを続行、労使紛争が泥沼化し、同社の独占的権益に対する批判があらためて噴出している。
 現地からの報道によると、労働者やその家族ら八千人は同日、ティミカの同社労組事務所に集結。市内のゴロンゴロン・バスターミナル付近の同社事務所に向かってデモ行進し、経営陣との面会を要求した。
 デモ隊はターミナル前で待機していた警官隊に投石を開始、警官隊が威嚇射撃を繰り返したため、これに怒ったデモ隊と衝突、警官隊は催涙弾を発射して鎮圧に当たった。
 国営アンタラ通信は、警官隊が実弾を使用し、被弾したフリーポート社系列会社の地下掘削担当労働者ペトルス・アヤムセダさん(三六)が死亡したと報道。警察機動隊の私服諜報員も重傷を負い、十一日、搬送先の病院で死亡した。
 ティミカ周辺では、フリーポート社が保有するトレーラー三台を含む四台に火が付けられたほか、木を倒すなどして、アママパレ港からトゥンバガプラ(グラスバーグ)鉱山に向かう幹線道路の一部が封鎖された。
 労働者デモが暴徒化したのを受け、フリーポート社は「警察と協力して事態の収拾を図り、従業員の職場復帰を実現させたい」との声明を発表した。
 労組は経営側との賃上げ交渉が頓挫したことを受け、七月に次ぎ、今年二回目のストを九月十五日に開始した。今月に入り、労組はストライキの終了時期を当初の十月中旬から十一月中旬まで延長すると発表。労組は当初、一時間あたりの賃金を現行の一?三ドルから、他国のフリーポート社で働く労働者の水準に合わせ、一七・五?四三ドルへと引き上げるよう要求していた。その後、要求額を一二・五ドル?三七ドルへ引き下げたが、経営側が提示した二五%増の提示は拒否し、交渉は膠着していた。
 また労組はストに参加している労働者の代替労働者を雇用したとして、同社は労働法に違反したと非難している。
 事態を重視したパプア州内の各部族代表者で構成される人民評議会(MRP)やパプア州議会は七日、州都ジャヤプラで労組と協議。労組の要求内容を受け入れ、経営陣に待遇改善を要請し、問題が決着するまで鉱山の一時操業停止を訴えていた。
 国際人権団体アムネスティ・インターナショナル太平洋部長のサム・ザリフィ・アジア氏は「警察は暴力に訴えずに対処すべきだ」と批判、「インドネシア政府は早急に労働者への発砲事件を究明してほしい」と訴えた。

■暴力で住民が不満表明 地元自治体の財源確保も
 フリーポート社をめぐる衝突は断続的に発生している。二〇〇六年、パプア州ジャヤプラ県アベプラで、同社閉鎖を訴える学生デモ隊と警察が衝突。警官と軍人計五人を虐殺したとして、活動家二人に禁固十五年の重罪が下されたことがある。
 武装集団が同社従業員らを襲撃する事件も続発。〇二年、同社内のインターナショナル・スクールの米国人教師や家族ら三人が殺害され、〇九年には豪州人技師が射殺され、昨年は同社の米国人従業員ら九人が負傷。今年四月には同社警備部長ら二人が射殺された。
 米証券取引委員会によると、フリーポート社は昨年、「企業活動に対する地元の支持を拡大するための費用」として、八百万ドルをインドネシアの警官や軍人計千八百五十人に支払ったとされる。軍警察幹部の子どもの米国留学を支援するなど、同社と治安当局の癒着も指摘されている。
 非政府組織(NGO)のリデップ・インスティチュートのアミルディン・アル・ラハブ氏は「中央政府から見ると、フリーポートはパプアにおけるインドネシア政府の主権の象徴。だが地元の人々は、鉱山をめぐる何らかの事件が発生しなければ、中央政府がパプアの利益や住民の福利厚生について考えることなどないと思い込んでいる」と指摘する。
 衝突の背景には、インドネシア政府へのフリーポート社の株式移譲計画があると強調。来年末までの実施を予定し、一九九一年の契約更新で移譲比率は五一%で合意したとされる。「長期的に見た場合、パプア特別自治法に基づいた中央政府からの地方交付金付与が終了する二〇二五年に向け、パプア州や地元のティミカ県も主要財源の確保に躍起になっており、州と県がそれぞれ同社の株式取得を要求している」とし、自治体の思惑も絡んでいるとの見方を示す。
 さらに地元住民にとっては、二百六十万ヘクタールに及ぶ同社の広大な開発用地をめぐり、先祖伝来の土地の賠償問題が解決しておらず、労使紛争が契機となり、同社と住民の対立が激化する恐れがあると警告した。

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