求心力低下顕著に 焦点は次期選挙へ ユドヨノ第2期政権きょう発足3年

 2009年10月20日に発足したユドヨノ第2期政権が20日で3年を迎える。新興国各国の経済も停滞感が漂い始める中、ユドヨノ政権はこの1年、安定した成長を維持することに成功。昨年末には日米中ロなど地域大国が顔をそろえた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議をバリで開き、国際社会での存在感を一層高めた。一方、内政では重要施策が進まず、市民の政権への期待感は膨らまず、看板政策の汚職対策も停滞気味。大統領の出身母体である民主党内の汚職疑惑が収まらないことで、失望感はより強まった。04年の大統領就任から第1期の5年間を経て、圧倒的な支持を受けて再選を果たした09年の熱気は遠く消え去り、レームダック(死に体)化が進むとの見方も挙がる中、焦点は2014年の総選挙・大統領選挙に移りつつある。(関口潤)

 ユドヨノ大統領の求心力低下を印象付けたのは今年3月の補助金付き燃料の値上げをめぐる騒動。政権は財政健全化のため値上げを断行する方針で調整を進めていたが、街頭での抗議デモを受けて、連立与党のゴルカル党などが国会採決直前に反旗を翻し、与党をまとめきれていないことが露呈した。
 先月激しさを増した汚職撲滅委員会(KPK)と国家警察の対立では、今月に入ってようやく直接調停に乗り出したが、遅きに失した感は否めず、大型汚職を次々と追求して再選の原動力ともなったKPKを支えていないとの印象が広がった。
 民主党は09年にユドヨノ人気を背景に第1党に躍進したが、汚職騒動が続き、国民の支持が離れた。次回選挙で議席数を大きく減らすのは必至だ。ユドヨノ氏の後継探しも難航している。
 一方、外交では7月のASEAN外相会議が共同声明を採択せずに閉幕した後、マルティ・ナタレガワ外相が各国を直接訪れて仲介するなど、ASEANの中心国としての地位を内外に示している。だがユドヨノ氏は4月のASEAN首脳会議や今月12日のバリ島爆弾テロ追悼式典を欠席するなど、内政に追われる場面も目立つ。
 民間調査機関・全国調査研究所(LSN)が今月15日に発表した世論調査の結果では、第2期政権でそれまでよりも「状況が好転した」を選択した人の割合は15%にとどまり、約8割は「好転していない」「悪化した」を選択。政権支持率は6割を超える得票率で再選した09年9月から一貫して低下傾向にある。

■「成長の実感ない」 首都市民、スハルト懐古も
 中央ジャカルタのオフィスビル周辺で働く市民にユドヨノ政権の評価を聞くと、連日報道が続く汚職疑惑に対する失望に加え、国際社会での存在感向上につながっている高い経済成長率の実現についても、「庶民は実感できていない」と不満の声が上がった。
 「経済成長を実感しているのは上級公務員とか上層の人たちだけで、市民の暮らしは変わらない。むしろスハルト時代の方がお金を稼ぎやすかったって親は言っているよ」と語るのは警備員のアリヤントさん(35)。給料は月180万ルピア。1年ごとに勤務契約を延長する形式になっており、「アウトソーシング(派遣・請負労働)だよ」と話す。次の選挙で投票したい人を聞くと、「信頼できる人なんていない。誰でも同じだよ」と嘆いた。
 オフィス街の裏手でミー・アヤム(鶏肉入り麺)のカキリマ(移動式屋台)を営むウンコンさん(54)は、収入は月500万―600万ルピアほどだが、「支出も増えていて自転車操業の状態だよ」。「ジョコウィ(ジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事)は町を歩いて直接、市民の声を聞くけど、SBY(ユドヨノ大統領)は報告を部下から聞いているだけでしょ」とつぶやく。
 証券会社で働くデニー・クルニアントさん(53)の収入は700万―800万ルピア。「経済危機を乗り越えた指導力は評価できる。ただスハルト大統領の方が庶民の生活を考えていた」と主張し、次期大統領選では「スハルト氏に似ているプラボウォ氏に投票したい」という。
 収入は千万―1500万ルピアという金融サービス代行会社勤務のハンダイ・ジャヤさん(45)は「しっかりと経済発展しているし、表現の自由も広がった。昔はメディアに発言する勇気はなかったよ」と語る。アウトソーシングの問題があることは認識しているが、「それでも格差は昔より縮んだはずだ」とユドヨノ政権の功績を評価した。(関口潤)

■内政停滞に失望広がる テロ犯大量逮捕は成果 立命館大学の本名純教授
 2009年にあれだけの国民の信託を得て再選し、大きな期待がかけられていたにもかかわらず、公約に掲げていた汚職対策が政権発足から3年が経ってもあまり進んでいないことに対して、多くの国民が不満を抱いており、ユドヨノ大統領の求心力低下につながっている。
 汚職体質の改善が進んでいない現状は、今回の汚職撲滅委員会(KPK)と警察の対立が象徴している。再選して、より指導力を発揮できるとみられていたが、KPKの取り組みをてこ入れすることができていない。しかも足下の民主党でも汚職疑惑が噴出している。
 大統領が指導力を発揮できない理由の一つは、調和を大事にする彼自身の性格。汚職対策の抵抗勢力に対しても踏み込もうとしない。もう一つの理由は国会との関係性。過半数を制していない民主党は、政策を進めるには連立与党との調整を図る必要があるが、民主党の指導部は与党をコントロールできておらず、ゴルカル党や福祉正義党(PKS)が異論を挟む余地を与えている。
 2014年4月の総選挙までまだ1年以上あり、レームダック(死に体)化が進んでいるわけではない。選挙のタイミングに合わせて世論受けする政策を打って、政権が再浮上することもあり得る。
 700人以上のテロ犯を逮捕した治安対策はユドヨノ政権の成果。治安が安定したことで外国投資も回復し、それが経済成長と雇用の安定につながり、治安の一層の安定に寄与するという好循環が生まれている。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でのインドネシアの影響力を高めていることも、国家元首を8年間務め続けているユドヨノ氏の存在が大きい。

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