【選挙戦を追う―6党激突 2012年首都知事選?】 わたしは「地元候補」 現職のファウジ候補

 今月11日投開票のジャカルタ特別州知事選で、6候補組の選挙活動が熱を帯びてきた。世論調査では、現職の強みを生かすファウジ・ボウォ現州知事組が優勢だが、1回目の投票で当選に必要な過半数の得票に届くかは微妙な情勢。追いかけるジョコ・ウィドド・ソロ市長組ら5候補が浮動票とファウジ氏の基盤をどこまで取り込めるか。初の直接選挙で2候補による直接対決となった前回選挙(2007年)と打って変わり、6候補が乱立し、初の独立候補も2組と話題に事欠かない首都知事選。中央の政局が依然混沌としていることから、今回の結果が、ポスト・ユドヨノの体制を決める2014年の国会議員・大統領選挙の試金石になるとの見方もある。堅調な経済成長が続く新興国の中心、かつ東南アジア最大の1千万人都市を率いる首長の座をめぐり、票集めに奔走する各候補の現場を追った。(吉田拓史、写真も)

 「われわれは地元の人間。彼らはよそからやってきた」。29日、中央ジャカルタのジョハル・バルでの集会。退役軍人のナフロウィ・ラムリ副知事候補(民主党ジャカルタ支部長)の弁舌が冴え渡る。「そこを曲がったところにモスクがあるだろう。あそこにはサッカー場があった。この小道だって、ワルン(屋台)で飯を買って通ったことがあるんだ。全部知っているんだよ。だって、私とファウジはここ(ジャカルタ)で生まれたんだから」
 ジャカルタの地元ペアがよそ者たちを迎え撃つ―ファウジ組が描く構図だ。ファウジ氏の母はジャカルタの土着民族ブタウィ人、ナフロウィ氏は両親ともにブタウィ人。中部ジャワ出身のジョコ氏とヒダヤット氏、南スマトラ出身のアレックス氏ら「よそ者」に対して、「地元」が一枚岩になるよう呼び掛けてきた。
 演説会場はカンプンの路地。三叉路の真ん中に作られたステージの周りに支持者約800人がごった返した。ブタウィ人の伝統武道「プンチャック・シラット」を披露する若者、「ファウジ組で決まり」と歌うダンドゥット歌手に「一家でファウジ組に投票します」と誓う町内会長など、さまざまな支持者が登場する。
 「ハヌラ党、PKB(民族覚醒党)」。ナフロウィ氏が会場の支持政党、社会団体を一つずつ呼んだ。その数35団体。これが強固な基盤をもとに組織票を固めるファウジ陣営の戦略を物語る。後援会「フォーラム・ブルサマ・ジャカルタ」などのコアの支持層を基盤に自警団、各民族団体、業界団体、イスラム団体など幅広く支持を広げている。「支持を得た社会団体は200を超えた」(アズハル・ヘルミ選対広報)。
 さらに、当初7政党だった推薦政党は先月28日、4政党がジョコ氏から鞍替えし11政党に。最大の32議席を持つ民主党をはじめ、特別州議会の94議席中、41議席の支持を得た計算だ。
 選挙コピーは「ジャカルタは進化し続ける」。ファウジ氏は、建設中の高架式道路や、改修計画のあるチュンカレン水門の視察といった公務を通じて5年間の実績を強調するとともに、今後の公共事業による「ばらまき」をちらつかせ、現職の強みをフル活用している。
 だが、陣営には懸念もある。第1回投票で過半数を取れなければ、決選投票で「よそ者」に包囲網を敷かれる可能性があることだ。「得票率60%で一発当選だ」とナフロウィ氏が何度も繰り返した言葉には、他の候補が票を取り合う段階で勝負を決めたいという危機感が見え隠れする。

◇正副知事候補の経歴
 ファウジ・ボウォ 1948年ジャカルタ生まれ、インドネシア大学工学部建築学科卒業後、76年独大学で都市計画の修士号を取得。78年にジャカルタ特別州職員。観光局長、助役を経て、02―07年副知事。07年から現職。資産額は候補中1位の593億ルピア(約5億円)。
 ナフロウィ・ラムリ 1951年ジャカルタ生まれ。74年の入隊以降、陸軍の諜報畑を歩き、2008年陸軍少将で退役。09年から民主党ジャカルタ支部長。両親ともにジャカルタの土着民族ブタウィ人でブタウィ人社会団体「フォルカビ」「バムス・ブタウィ」の代表を務める。

◇ジャカルタ特別州知事選
 インドネシアの州、県・市の地方首長選は地方自治法(2004年)に基づき、知事、副知事候補のペアで出馬。05年から各地で住民による直接投票が行われている。
 ジャカルタ州知事選は2007年の前回に続き2回目。立候補要件は、09年州議会議員選挙で、有効投票の15%を獲得しているか、あるいは94議席のうち15議席以上を有する政党、政党連合の支持を得ること。それ以外にも、ジャカルタの総人口のうち約4%に当たる約40万人の支持署名を得れば、特定の政党による支持を受けない独立候補も出馬を認められ、今回は同州知事選で初となる独立候補2組が条件を満たして出馬した。
 有権者は特別州内で住民登録した17歳以上のインドネシア国民。
 6月24日―7月7日がキャンペーン期間、7月11日に投開票。過半数に達する候補がいない場合は1位と2位による決選投票になる。新知事の就任は10月で任期は17年までの5年。

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