デジタルの中のアナログの温かさ 大阪・関西万博 インドネシア館ルポ
大阪・夢洲で開催中の2025年日本国際博覧会「大阪・関西万博」に設置されたインドネシア館では多様な現地の文化に触れる多くの展示がなされているという。実際に5月、現地を訪れた。
■入場時にコーヒー無料配布
大阪・関西万博ではスマホが手放せない。スムーズにパビリオンへ入館するには事前の抽選、予約が必須だ。それでも枠が取れなければ当日枠を狙う必要がある。そのためか、来場者はみんな手元のスマホに目を落とし、SNSで情報収集しながら当日予約分をなんとか手に入れようと必死だ。そんな光景が広がる中、ひときわ雰囲気の違うパビリオンがあった。
それがインドネシア館。未来への期待感を感じさせる船のデザインが一際目立つ。数少ない事前予約なしで入れる自由入場形式を採用しており、入場のために列に並ぶと、インドネシア人スタッフが一人一人、無料のブラックコーヒーを提供してくれる。少し酸味の感じられるフルーティな味わいは子どもたちにとっても飲みやすく、好評を博していた。
スタッフはとてもフレンドリーで、「こんにちは」「楽しんでね!」と声をかけてくれる。そんなスタッフの親切さに引っ張られてか、子どもも大人も関係なく、列を待つ間、コーヒーの感想を言い合いながら朗らかな時間を過ごすことができた。
■熱帯雨林がお出迎え
15分ほど並んで、ついに中へ。目の前に広がるのは本物の植物で再現された熱帯雨林だ。至るところにある滝から流れ落ちる水の音に気分が高揚する。ジャングルの中で、じっと目を凝らすとスマトラトラ、コモドドラゴンの模型も見つけることができた。もわっとする空気の生温かさは現地の気候を肌で体感でき、人気アニメ「ドラえもん」の「どこでもドア」でも使ったのかと思わんばかりの没入感だ。あちこちから子どもたちのはしゃぐ声が聞こえ、探検ごっこを始める子たちの姿も見られた。
■刀剣で人骨使用のものも
ジャングルを抜けると360度の映像空間へ入る。プロジェクションマッピングと音響の演出が加わり、迫力は十分だ。そこを抜け、2階へ上がるスロープを歩いていく。車椅子やベビーカーで来場した客も安全に進める。スロープに展示されているのは、各部族に伝来する武具であり神具でもあるクリス(短刀)の数々だ。多くの民族が受け継いできた文化は多様性に富み、刀一つとっても豊かなデザインを楽しむことができる。
特に印象的だったのは柄の装飾に人骨を使用した剣だ。大腿骨などから作られ、歴史的には通過儀礼などに使用されたというエピソードが一つ一つ丁寧に解説されていた。
■新首都の物語も紹介
スロープを上り切ると「未来エリア」へ入った。シアター中央にはカリマンタン島東部で建設が進む新首都「ヌサンタラ」の模型が設置され、壁側には様々なインドネシアの格言が浮かび上がる。「他者を敬えば平和は育つ」「私たちは自然と一体である」…。首都の移転、経済成長など取り巻く環境が変わっても根底にある心は変わらず受け継がれ、次の世代へと繋がっていく。その力強いメッセージが心に刺さった。
このエリアを抜けるとパビリオンもいよいよ終盤だ。伝統的な織物の展示、織物を使ったオブジェが並ぶ。繊細な絵柄に吸い込まれるように見入ってしまった。
ラストは映画館型のシアタールームで、無形文化遺産にも登録されている伝統的な影絵芝居「ワヤン・クリ」のドキュメンタリーが放映される。白布に浮かび上がる人形の姿に現地の子供達が釘付けになっている場面などが上映され、ワヤン・クリがインドネシア人の生活の中に溶け込んでいる様子をうかがい知ることができた。
視聴後、シアタールームを出ると劇中で使用された人形たちが来場者たちを送り出してくれた。
受け継がれる伝統と、これからの未来。五感を通して楽しむことができるインドネシア館は、デジタル化が進み変わり続ける社会の中にあっても変わらない人の心、人の想いがあることを訴えかけてくる。(じゃかるた新聞特派員 高村優奈、写真も)
高村優奈(たかむら・ゆうな) 音声メディアVoicyのニュースパーソナリティのほか、幅広いジャンルをカバーするライターとしても活動する。現在は会社員として日本で勤務しながら、じゃかるた新聞の特派員として日本国内のインドネシア関連の取材を手掛ける。2000年生まれ。