利下げ巡る心理戦
米国時間の明日18日、世界中の市場参加者が注目するドルの政策金利の決定が予定されている。4年半ぶりとなる利下げが行われることはほぼ確実ながら、その幅について、規定幅の0・25%かその倍の0・50%かを巡って、市場参加者による心理戦とでもいうべき状況が活発化している。
長らく続いた米国のインフレも直近2ヶ月連続で2%台に沈静化、今月6日の雇用統計も景気後退を大きく懸念させるような内容ではなかったため、その時点では初回の利下げ幅としては0・25%が妥当との見方が大勢であった。ただ、市場参加者の間では景気後退リスクに対する懸念から踏み込んだ利下げを支持・予測する向きが強まっている。
ドルの政策金利決定に関わる連邦準備理事会(FRB)の理事には、普段はインタビュー等で対外発信にも熱心なメンバーが多いが、実際の金利決定のタイミングである連邦公開市場委員会(FOMC)の前後の一定期間はそのような発信を控えなくてはならない「ブラックアウト期間」が設定されている。今回の場合は雇用統計が出た直後の9月7日からブラックアウト期間に入っており、このところFRB当事者から利下げ幅についてのメッセージは一切出てきていない。
それだからと言うべきか、市場では逆に観測的な動きが絶えない。先週は米ウォールストリート・ジャーナル紙に今週のFOMCでの決定について、歴代FRB理事の発言をつなぎ合わせながら0・50%利下げの可能性を示唆する記事が出た。市場もこれに大きく反応、昨日はドル円相場も(日米金利差縮小が加速するとの思惑から)年初来の円高水準139円台をつけた。
FRBとしては、利下げの初回となる今回は0・25%幅で市場の反応を見ながら、年末・年初に向けての下げ幅を調整していきたいとの考えを持っていたはずだ。ただ一方で、ジリジリと雇用環境が悪化する中、踏み込んだ利下げ(0・50%幅)のカードを切るタイミングが遅れたとの誹りを受けるリスクも避けたい。かなり難しい判断を迫られていると言えよう。
利下げ0・5%派のエコノミストからは、足下の雇用環境の悪化を強調する論調も目立ってきている。今のような不透明感が高い状況下では、新たなセオリーを用いて将来予測をしようとする向きが出てくるものだが、直近では「サーム・ルール」と呼ばれる法則(直近3カ月平均の失業率が過去12カ月の最低値より0・5%以上上昇すると景気後退の始まりを示す)を持ち出し、いま米国経済が景気後退の入り口にいるとの見方を補強しようとする論調も出てきている。このルールはどちらかというと過去統計に基づく相関関係の説明であって、因果関係を立証したようなものではない。ただ、後付けで理由を探している人たちにとっては好都合なルールということかもしれない。
明日18日はインドネシア中銀にとっても月一回の政策決定会合の場で政策金利を決めるタイミングとなる。残念ながらFOMCよりも前になるので、ドル利下げ幅の結果を見てから決めるということにはならない。8月以降のルピア高相場を考えるとルピア金利引き下げもあり得るだろうが、敢えてドル利下げの前にそれを実行するか、それとも従来の慎重姿勢を維持して金利据え置きとするか、こちらの方も注目される。
(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)