グスドゥル・センター開設 宗教間対話の学術拠点 インドネシア大

 世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアで、大多数を占める穏健派イスラムの学術拠点にしようと、西ジャワ州デポックのインドネシア大学(UI)は18日、同大図書館に「宗教間対話・平和のためのアブドゥルラフマン・ワヒド(グス・ドゥル)センター」を開設した。強硬派による少数派襲撃事件が続発するなど、「多様性の中の統一」を掲げる国是の重要性があらためて問われる中、インドネシアを代表する大学であるUIが、2009年に死去した元大統領の遺志を継承し、宗教間対話を促進していく姿勢を示した。

 グス・ドゥル・センターは、UIの図書館3階の一角に開設。 グス・ドゥルが生前に発表した膨大な著書、新聞や雑誌などに発表した文章、研究機関「ワヒド・インスティチュート」発行の出版物などをそろえるほか、コンピューターで映像なども視聴できる。UIが特定人物に焦点を当てた施設を設置するのは初めて。
 同図書館は昨年、各学部の図書館を統合する形で新設されたばかり。蔵書は150万冊に上り、視聴覚室やレストラン、カフェなどを完備。土日も開館し、グス・ドゥル・センターも同大学生だけでなく、一般市民ら幅広い層の利用を見込む。

■思想のオアシス
 開所式には、UIのグミラル・ルスリワ・スマントリ学長、シンタ・ヌリヤ夫人や次女イェニー氏らグス・ドゥル一家、1970年代からグス・ドゥルと親好が深かったインドネシアとイスラム研究者の中村光男・千葉大名誉教授、グス・ドゥルの祖父が創設したインドネシア最大のイスラム団体、ナフダトゥール・ウラマ(NU)のサイド・アギル・シラジュ議長らが出席した。
 シンタ夫人は「故人が遺した文章はあちこちに散在している。同センターがグス・ドゥルの思想を語る学生らのオアシスになれば」と期待を寄せた。

■多元主義の大学
 グミラル学長は「UIは、『国民の教師』であるグス・ドゥルが唱えた多元主義のキャンパス」と高らかに宣言。図書館には映画上映やセミナーを開ける施設もあり、同センターを宗教間対話などを行う活動拠点にしていきたいとの意向を表明した。
 アギル議長はユーモアを交えながら、さまざまなグス・ドゥルのエピソードを披露。動乱への対処に苦慮する中東情勢について「中東には、宗教間対話を重視するNUがないからだ」と話して会場を沸かせた。
 同センターの支援者には、グス・ドゥルとの対談集もある池田大作氏をはじめ、仏教、キリスト教など他宗教の指導者、多様な分野の文化人が名を連ねた。
 このうちの一人で映画監督のガリン・ヌグロホ氏は「グス・ドゥルの講話はインドネシアの貴重な口承文化でもある」と指摘。同センターがグス・ドゥルの軌跡を伝える拠点になってほしいと述べた。

■穏健派の反撃
 グス・ドゥル・センター開設について、中村氏は「大衆の指導者だったグス・ドゥルの思想の拠点が、インドネシア最高の大学の一角に開設されたことは、時代の変化と無関係ではない」と話す。
 UIは、学生組織などを基盤として勢力を拡大してきたイスラム政党・福祉正義党(PKS)を支持する学生も多い。一方で、キャンパスのあるデポック市はPKS幹部が市長を務め、強硬派の活動も活発化している。
 しかし、最近は中部ジャワ州ソロ市長のジョコ・ウィドド氏がジャカルタ特別州知事選で首位通過するなど、穏健派勢力による巻き返しとも言える動きもみられ、同センター開設もこうした変化の中に位置付けられると指摘した。

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