「対等な労使関係を」 「対話の場求めたい」 金属労連のイクバル会長に聞く

 近年の労使紛争で、脅迫行為や高速道路の封鎖など、先鋭化が目立つインドネシア金属労連(FSPMI)。アウトソーシング(派遣労働)の運用や来年以降の最低賃金の行方などが内外投資家の関心事となる中、サイド・イクバル会長(44)に労組をめぐる現状や同労連が目指す労使関係のあり方などについて聞いた。(上野太郎、写真も)

◇現在のFSPMIの組合員数は。
 イクバル会長 昨年末までに約13万人。その後、西ジャワ州ブカシで急増し、今は16万5千人。加盟単組は540社から666社に増えた。

◇活動費はどのように確保しているのか。
 組合員が手取りの1%の月1万2千―3万ルピアを支払う。40%を中央執行部、60%を単組に配分し、中央の資金の一部を地方支部に割り当てる。
 インドネシアの労組は大きく三つに分かれる。一つ目は既存の労組連合。元々、政府のお抱えで、組合費もほとんど徴収しない。独立性がなく、経営側の意向が反映されやすい。
 二つ目は、左翼的なイデオロギーを持つ労組連合。政権転覆を目指し、とにかく抵抗することが目的だ。
 そして、三つ目は新勢力。プロフェッショナルな労組連合と呼んでいる。FSPMIはここに位置する。特定のイデオロギーを排除し、独立性を保持しながら対等な労使関係を目指すもの。先の二つの勢力の修正を促そうとするものだ。
 
 この数カ月、アウトソーシング問題をめぐり、工場への無断侵入や暴力行為、企業幹部の軟禁などが報告された。FSPMIは、法律に違反する派遣労働を採用する企業に対し、長年抗議しているが、協議の場につかないため、やむを得ず強硬措置を講じていると主張する。
 
◇政府が違法行為か判断し、摘発すべきで、FSPMIが違法行為をしてまで取り締まる権限はない。
 確かにそうだが、法律で明確に工場の生産業務などのアウトソーシングが禁じられているにもかかわらず、政府は労働状況を監視し、違反を摘発するという点で非常にぜい弱だ。
 われわれは違反企業を問題視し、政府に法の的確な執行を求めているだけだ。地方の労働局が適切な監視を行えば、このような行動に出る必要はない。
 今年初めの高速道封鎖は、アピンド(経営者協会)が約束を破ったため、労働者が怒りをぶちまけた結果。執行部が指示したわけではないが、その怒りを抑え込むことはできず黙認したということだ。
◇日本企業は法律を順守しているところが多いにもかかわらず、標的になっている。
 日本の経営者は、韓国や台湾と比べ、ずっと良いのは分かっている。現実にわれわれが騒ぎ立てているのは韓国企業の方が多く、韓国大使が抗議したほどだ。
 実際に攻撃されている企業の雇用や賃金状況を見てほしい。健康保険も年金もなく、5年働いても雇用が保証されていないようなところのはずだ。
◇柔軟な雇用調整が行えないと投資の障害になり、近年の投資誘致の絶好の機会を逃すという懸念があるが、それについてどう考えるか。
 われわれは契約社員は拒否しない。会社もリスクを背負っている。全員を正社員にするのは無理なのは分かっている。労働市場にも浮き沈みがある。
 しかし、10年も続けて契約社員、15年も最低賃金というのは認められず、公平性の観点からの条件が必要。われわれは標準的な生活を求めているだけ。適性生活水準(KHL)を満たすということだ。

◇KHLはすでに100%を超えている地域も多いが。
 それはわれわれが運動を展開し、高速道を封鎖するまでしたから。FSPMIが動かなければ100%は超えなかっただろう。それも一部の地域にすぎない。
 現在はKHL自体を大幅に引き上げようと活動しており、来年も急激な賃上げの懸念がある。どこまで行けば適正だと判断するのか。
 賃上げ要求は段階的に行っていくべき。直接、急に引き上げようということではない。われわれの要求は調査に基づいている。政府は現在60項目だが、われわれは86から最大で122項目まで増やすことが目標。その妥協点を模索していく。
 1人当たりGDPと最低賃金の関係を見ても、タイなどの周辺諸国と比べ、給与水準が低いのが現状。生活水準は国ごとに異なるが、健康保険や年金の拡充と合わせ、労働者が貯蓄ができるような状態となることが一つの基準となる。それがなければ、将来が不安定で長期的な人生設計を立てられないからだ。

◇理想の労使関係をどう考えているか。
 一つ目の条件はパートナーとして対等であること。二つ目は相互信頼。経営者は政府の支持を得て、強い立場にある一方、労働者はまだ弱いという現状を認識しなければならない。
 われわれは交渉の段階では、強硬姿勢で時には机をたたくこともあるが、それが普通。しかし、加盟単組のストの数は、他の団体と比べ圧倒的に少ない。労働者は職を失うし、会社側は時間や利益、信頼を失ってしまうことが分かっているからだ。
 ただ、一度やると決めると徹底的にやるため、目立つというだけ。それも経営側が労働協約を守らず、対話にも応じないという理由がほとんどだ。
 確かにやり方は正しくないかもしれないが、FSPMIは労使を対等にするための努力をしている。対等になってこそ初めて相互信頼が築ける。
 そのために労使間の対話が必要だ。JJC(ジャカルタ・ジャパンクラブ)は「アピンドを通じて」と言うが、アピンドを現場で運営しているのは人事担当者。彼らは経営者のマインドはなく姿勢も対立的。
 経営者とのコミュニケーションが不足しているのは認める。経営者側が会いたいと思っていないということもある。われわれへの恐怖心や時間的な制約かもしれない。
 しかし、IMF―JC(全日本金属産業労働組合協議会)が主催し、JJCも参加したワークショップのような試みは、双方が直接対話できる点で非常に素晴らしい。1年に1回は開かれた場で意見をぶつけ合うべきだ。

■インドネシア金属労働組合連合(FSPMI)
 1999年2月に設立。金属、自動車・機械・部品、電機、航空、造船の五つの産業別単一労働組合で構成される。2001年に国際金属労連(IMF=当時、現インダストリオール・グローバル・ユニオン=GUF)加盟。全国で9支部を含む12拠点があり、自動車や電機業界などを中心に日系企業が80%以上を占める。

■サイド・イクバル氏
 1968年7月、ジャカルタ生まれ。インドネシア大学ポリテクニック(工業短大)卒業後、91年に松下寿電子工業インドネシア社(当時)入社。92年から労組専従。2006年にインドネシア金属労連(FSPMI)の会長に就任。11年に再選を果たし、16年までの任期で現職。12年―17年までFSPMIなど九つの産業別労働組合が所属するインドネシア労働組合総連合(KSPI)の会長も務める。勤務と並行して、ジャヤバヤ大学で機械工学の学士、インドネシア大学で経済学の修士取得。

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