ポストコロナの風景

 ここ数週間のジャカルタ市内の渋滞レベルはほぼコロナ前の水準に戻ったようだ。週末のショッピングモールの賑わいも増している。経済活動が回復してきている証として歓迎すべきかもしれない。欧米各国でのコロナ後の経済回復はアジアよりも一足先に訪れたが、その風景は少し異なる。欧米の大都市に住んでいる人にとって、スーパーの棚が品薄になる、シェフが辞めて代わりを採用できないので馴染みのレストランが閉店する、週末の旅行で予約していたフライトが急にキャンセルになる、といったことがいつの間にか決して珍しいことではなくなってしまった。
 約40年来のインフレ率上昇で、人々の間でインフレには2つの種類があることが思い出されている。需要が高まることによるディマンドプル・インフレ、供給に制約が出ることによるコストプッシュ・インフレだ(モノの価格が需要と供給によって決まることを考えればわかりやすいであろう)。今世界的に起きているインフレはコストプッシュの要素が強いと言われる。欧米の各都市で見られるモノやサービスの供給が滞る様はまさにコストプッシュ・インフレの姿そのものであると言えるだろう。
 今年の初めには今回のインフレがあくまでも一時的なものなのか、それとも長く続くものなのかについて、政策・金融当局から学界、ビジネス界のエコノミストに至るまで幅広い議論が展開された。結局、今はこのインフレはある程度長引くものとの見方が大勢になっているが、当初「一時的論者」の眼を狂わせたのは、コロナ後の急速な経済回復によるインフレはディマンドプルであるとの見方に引っ張られたからという面もある。
 では今起こっているコストプッシュ・インフレの要因はなんだろうか。ロシア・ウクライナ問題による資源・食糧供給の制約も大きな要因であるが、決してそれだけではない。コロナ前から続いていた歴史的な低失業率とギグワーカーのような働き方の多様化で、被雇用者側にバーゲニング・パワーが移ってきていること、また米中貿易摩擦やゼロコロナ政策の様な中国側の国内事情から、これまで世界が頼ってきた「世界の工場・中国」からのサプライチェーンが目詰まりを起こすことが増えてきたこと、といったことが挙げられる。当然ながらこれらの要因はいろいろな手を打ったとしてもすぐに解消することは難しい(例えばバイデン米政権は対中関税の引き下げたが起爆剤とはならないだろう)。コストプッシュ・インフレは概してだらだらと長引く傾向があると言われる。インフレファイターである中央銀行も、金融政策を通じてできることはディマンドプル(需要量)を抑制することだけであって、供給サイドに影響力を及ぼすことはできない。
 インドネシア経済に今この時点でコストプッシュ・インフレの症状が強く出ているかというとそこまでではないだろう。それでも今月1日に発表された6月の消費者物価指数(総合指数)は前年同月比4・35%上昇と約5年ぶりの高水準となった。経済調整省からも先週、主要食糧価格のコントロールを意図した政策パッケージが示された。グローバルのコストプッシュの流れにどれだけ対抗できるか。コロナ後のインドネシア経済を左右するメルクマールの一つとなるだろうと考えている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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