異臭の中にもゴトンロヨン
東ジャカルタのカンプン(集落)を走っていて道に迷った。トラックが砂埃を巻き上げ、川は異臭を放つ。オートバイは生身だから逃げ道がなく、こんな時こそ車で来ればよかったと思う。
Uターンした方が早道と考え、川沿いの道にオートバイを止めて小休止。スマホで地図を確認していると、なにやら大声が聞こえる。声のする方に目をやると、川の対岸に渡る〝渡し船〟が傾いていた。10台近いオートバイを乗せ、見るからに過積載だった。
〝渡し船〟といったものの、古い小屋に浮きを付けただけの簡易的なもの=写真。けれど、考えてみれば実用的だ。移動距離は約10メートル。人やオートバイを乗せて川を渡るだけなら、浮力があって船形は平面でいい。動力は両岸を結んだ綱をたぐる手動だから、小屋でいいのだろう。妙に感心してしまった。
それにしても、なぜ船が傾くほど利用者がいるのか。若い船頭、ヤントさんに理由を聞くと、これまた感心してしまった。
「コロナ禍で仕事がなくなり、村人は次々と失職した。でも食べていかなきゃ。そこで料理を作ったり、修理屋を始めたり、みんな自宅で収入を得る道を探す。その結果、カンプン内の移動が増え、でも橋がないから、みんな僕の船を使う」
もっとも料金は定額ではなく、心付けだけ。お金がなくても、乗せてもらえる。コロナ禍にあっても庶民に息づく「ゴトンロヨン(相互扶助)」の精神。なんとも気持ちがほっこりとした。(じゃかるた新聞=長谷川周人)
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