「今後20年は成長の機会」 「経済大国インドネシア」の佐藤百合さん

 昨年末に「経済大国インドネシア―21世紀の成長条件」(中公新書)を出版した日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の地域研究センター次長を務めるインドネシア研究者の佐藤百合さん(五三)がこのほど、ジャカルタを訪問した。インドネシアの歴史的な背景や現代の世界情勢から、近年、有望な新興経済国と評されるようになったインドネシアの位置付けを丹念に読み解き、今後の展望を提示した著書。佐藤さんは「インドネシアを『丸ごと理解する』のが地域研究の理想。今回も書くべきこと、書きたいことはたくさんあった。しかし、一冊の新書にまとめるには、内容を絞らざるを得なかった。エネルギーや環境、貧困、労働問題などは深くつっこめなかった」と説明。インドネシアの現状について、「この数年で霧が晴れたように先が見えるようになった。人口ボーナスと政治体制の安定という二つの条件を得て、今後二十年、成長のチャンスに恵まれるだろう」との見解を示した。

 「経済大国インドネシア」は全七章。「新興経済大国への道」と題する一章では、世界における人口規模と経済の相関関係を長い歴史の推移から分析し、近代は一人当たりGDP(国内総生産)水準の平準化が進んでいると指摘する。
 「勃興する人口パワー」に続く第三章「民主主義体制の確立」では、一九九八年のスハルト政権崩壊後から民主主義体制に移行、その後の激動期を経て体制を土台から転換することで得た政治体制の安定性は強固と分析。「二〇一四年の総選挙の結果のいかんにかかわらず、『安定と成長のインドネシア』という基本的な道筋は『ユドヨノの十年』を越えて続く」と結論付けた。
 これまでもインドネシアが一次産品を付加価値を付けずに輸出することを優先し、脱工業化の道を進んでしまうことで最終的に経済の低迷を招く「オランダ病」の懸念を指摘してきた佐藤さん。四章では、ユドヨノ政権が、二〇二五年までのインドネシア経済の持続的な成長を目指した政策指針として二〇一一年に発表した経済成長促進・拡大マスタープラン(MP3EI)を「フルセット主義Ver.2.0」と名付けて一定の評価を与える。一方、生産性の向上や、投資環境の整備、法の不確実性の是正などの課題も依然、残されているとしている。
 五、六章ではそれぞれ、「経済テクノクラート」「産業人」として、政策立案・運営や実業を通じて経済を動かしてきた人を軸に展開する。バークレー・マフィアの元祖、ウィジョヨ・ニティサストロ博士から、その「末裔(まつえい)」で現在は世銀専務理事を務めるスリ・ムルヤニ元蔵相に至るまでの系譜を丁寧なデータとともに提示。実業界と政界の密接な絡み合いを解説し、サリム、シナールマス、アストラといった大企業グループの変遷や新興財閥パラ・グループなども取り上げた。
 七章では、「クール・ジャパン」などの近年の動きも押さえながら、日本とインドネシアの関係を再検証し、今後の両国関係の進むべき方向を提示。三十年以上にわたり研究してきたインドネシアに寄り添うような姿勢で、「先進国と発展途上国」という構図は変わり始めており、日本人の側が変わっていかなければならないと説いた。
 今回、佐藤さんは次の著書に向けた準備のため、ジャカルタを訪問。本来の研究対象である大企業グループと中小企業のうち、アジア通貨危機やスハルト体制崩壊を生き延び、この十四年で大きな変貌を遂げた大企業グループに焦点を当てたものとなる予定だ。

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