福島とアチェの津波を題材にした小説 「手を取り合って」出版

 アチェと福島の津波被災者の今を描くアクマル・ナスリー・バスラルさん(51)の小説「手を取り合って(Te o Toriatte〜Genggam Cinta)」が11月25日、出版された。小説の主な舞台はジャカルタだが、日本とインドネシアを縦横に描き、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ被災者はどのようにして救済されるのかを問いかける。「日本とインドネシアは同じ自然災害国で、アチェと福島には多くの共通項がある。小説を通じ、どのようにして災害を乗り越えるかを伝えたい」とアクマルさんは語る。

 小説の主人公はアチェ出身の女性で、名前はムティア。日本に住むコンピュータ・サイエンスの専門家だ。2018年12月に起きたランプン津波の日本調査団の一員として、ジャカルタを訪れたところから物語は始まる。ムティアは日本人の遺伝子工学研究者にプロポーズされるが、深刻なトラウマを抱えていた。2004年のアチェ津波で家族全員を失った後、日本人夫婦の養子となって福島に移住するが、11年の東北大震災で再び養父母をなくすという、二重の悲劇に見舞われていたのだ。
 ムティアはジャカルタで、かつて辛い別れを体験した元恋人と再会する。ムティアは誰を選ぶのか、トラウマは癒やされるのか。深刻なPTSDに悩むムティアの危なっかしさに加え、複雑な恋愛模様が絡み、最後まで、展開に目が離せない。
 「好むと好まざるとにかかわらず、災害は起きる。生存者にはPTSDのような大きなインパクトがある。最も良い治療方法とは愛だと思う。それも一時的な恋愛ではなく無償の愛だ。だから、インドネシア語のタイトルは『手を取り合って』の直訳ではなく『Genggam Cinta(愛の結束)』とした」とアクマルさん。
 アクマルさんはジャカルタ生まれだが、両親は西スマトラ州出身。1994年からジャーナリストとして活動し、2004年のスマトラ島沖地震・インド洋大津波の際は、「テンポ」誌の記者として、アチェを取材した。小説に出てくる、ムティアが津波に襲われるリアルな描写は、その時の取材を基にしたものだ。
 アクマルさんは2010年、小説家に転身した。「手を取り合って」は15作目の作品となる。元々は、東日本大震災が起きた日本への支援として、作家・芸術家らが始めた国際プロジェクトに参加して発表した英語の短編が基。これをインドネシア語の長編に書き直した。
 ビートルズの曲をタイトルにした村上春樹の「ノルウェイの森」にならい、クイーンの曲をタイトルにした。この曲は、物語の中でも重要な役割を果たす。
 本はグラメディア書店で販売している。328ページ、8万6千ルピア。電子版もある。

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