【リトルインドネシアinアキバ】(4)アニソン、神社、モスク 〝異国〟が溶け込む下町 移民を「アクセプト」
アグス・スドラジャットさん(49)の土産店を訪れたのは、近所の山梅ビル大家の山﨑親一さん(51)だった。山﨑さんは、同ビルの5階に4月、インドネシア人らとモスク「マスジッド・ヌサンタラ・アキハバラ・トウキョウ(東京秋葉原ヌサンタラモスク)」を開設。自身は非ムスリムで、モスクを開いた理由は、インドネシア人が「友だちだから」だ。
秋葉原駅から歩いて3分。神社や生地産業で栄えた神田の伝統的な商店を過ぎる。アグスさんの土産店を通り、同ビルにたどり着く。1階は「アニソンカラオケバー」、隣接店には〝萌え系〟のキャラクターの大きな看板。4階は国際送金会社の「スピリット・バル・インターナショナル」、5階にモスクが入居する。モスクは広さ約66平方メートル、男女のお祈りスペースに洗い場を備える。インドネシア人に限らず、各国の観光客らも来る。連休の繁忙期は400人が訪れ、入れ替え制にした。
大家の山﨑さんが協力したきっかけは、アグスさんら友人との交流。4~5年前に資格取得のための授業で、たまたまインドネシア人女性と知り合い、ムスリムのことを知った。「うちの近くにアジアの人がたくさんいるところがある」。山﨑さんは近所のアグスさんの店に親しみを覚え、顔を出すと、店内にインドネシアの人々。すぐにアグスさんらと仲良くなり、店の〝常連〟になった。
約2年前にアグスさんの紹介で、国際送金会社のムハンマド・アンワルさん(50)の会社が同ビル4階に入居。ことし3月に5階が空きになり、周辺になかったモスクをつくることになった。
モスクの盛況ぶりに、一時は警察が交通整理をするほど。一方、利用者らは道で集まって話したり、たばこを吸ったり。近隣は下町の伝統地区で、住民の中には、大勢の外国人への戸惑いもあった。「すみません、すみません」。山﨑さんは一軒一軒回って謝り、事情を説明し、理解を促した。店の入り口には、喫煙や大勢で集まることを禁止する案内も掲示した。
アグスさんらは「ここにいられるのは山﨑さんのおかげ」と口をそろえる。山﨑さんはモスクを作った理由を「(アグスさんらが)友だちだから」という。別の国籍の友だちだったら、その国籍のニーズに応えていた。「ここ数年で外国人が増え、観光の人、仕事の人、いろんな人が来る。アクセプトするしかない」と、さまざまな国の人々が集まる移民社会に対応していく。
モスクの運営は、アンワルさんらが担う。アンワルさんはインドネシア最大のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマ(NU)傘下の「NU CARE-LAZISNU Jepang」を設立し、歌舞伎町と秋葉原のモスクをまとめている。
「イスラム教は、(過激派組織)イスラミック・ステート(IS)をはじめ、暗いニュースが多い。イスラム教を正しく理解してほしい」とアンワルさん。日本語で解説したイスラムの教えも配り、理解を求めている。
モスクを出ると、向かいのテナントで、ハラル料理店の開店準備が進んでいた。山﨑さんが開くローストアヤムの店だ。「ここはリトルインドネシア」。山﨑さんはアグスさんの土産店やモスク周辺を、そう表現する。インドネシア人同胞を支えるアグスさんを起点に、下町に〝異国〟が溶け込もうとしている。(おわり)