歓楽街の真ん中にモスク インドネシア人が心寄せる 新宿・歌舞伎町

 「風俗・キャバクラ・♥」「歌舞伎町№1の情報量」。黄色や黒、赤のケバケバしい文字が躍る風俗案内所の脇から、幅2メートルもない細い路地に入り込む。積み上げられたビールケース、エアコンの室外機。空気がよどんでいる。「道を間違ったな。まさかここじゃないだろう」と独り言。傍らのバーの看板のような丸い物が目に入った。「MASJID AL IKHLAS(アル・イフラス・モスク)」。ええっ?

 金曜日の午後、東京・新宿の歌舞伎町。ドアを開けると、床に男性4人が座っていた。人なつっこそうな丸い目と視線を交わすと、とっさにインドネシア語が飛び出した。「ここはモスクですか」。「そうだよ。どうぞ入って」と、インドネシア語が返ってきた。
 モスクは1階が玄関兼リビング、2、3階が礼拝スペース。どの階も6畳ほどの広さしかない。
 「ウスタツ(イスラムの教師)」と名乗るナスリル・アルバブ・モハマドさん(24)は「モスクは2002年に開設された。(インドネシア最大のイスラム団体)ナフダトゥール・ウラマ(NU)の傘下の財団が運営している」と説明した。礼拝に来るのはインドネシア人が大半だという。
 「私は(ジャカルタ近郊)デポックのプサントレン(イスラム寄宿学校)でアラビア語を教えていた。3カ月前にここへ派遣されてきた。宗教活動を盛んにするために」と話す。
 スラバヤ出身のリズクラ・マホタマ・シスミアントさん(18)は「清掃のアルバイトをしながら、新宿区内の日本語学校で勉強している。将来は自動車工場の社長になりたい」と夢を語る。「モスクでのお祈りは、ご飯を食べるようなものだ。お祈りをしないと、魂が空っぽになる」
 ロンボク島出身の元大学教員アルミン・ウディンさん(45)は東京農工大の大学院博士課程で生命工学を専攻する。「初めてこのモスクに来たときはびっくりした。風俗店とモスクが隣り合わせというのは、ロンボクだと考えられない」と苦笑いする。
 一方、マホタマさんは「スラバヤだと、飲食店のそばにモスクがあるのも普通なので、私は気にならない」と話した。
 礼拝が始まると、3階は10人ほどの男性でいっぱいになった。エアコンが動いているが、暑さで汗が噴き出してきた。
 アリク・スティヤワンさん(34)は視線がうつろ。派遣社員として設計関係の仕事をしているが「きょうは体調が優れないので半日休を取ってきた」。握手をすると手が熱っぽい。「最近、営業を命じられ、暑い屋外と、冷房の効いた室内の行き来を繰り返しているうちに、風邪を引いたみたいだ。のどが痛い」と目を落とす。
 「でも、このモスクに来ると気持ちが楽になる。今の会社は残業が多い。残業が少ない職場に移りたい」とつぶやいた。 (米元文秋、写真も)

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