3王国の玉座
10月に船出する第2期ジョコウィ政権に向けて、政界は閣僚ポストの獲得交渉で大忙しだ。そういう日常から一歩引いて、少し中長期的な政治のうねりを考えてみよう。それは、この国に君臨する三つの政治王国の展望に他ならない。
今、どの王国も世代交代で大きな悩みを抱えている。失敗すれば王国の存続も危うくなる。
まずスカルノ王朝の問題が顕著だ。独立の父の血統を継ぐメガワティは、もう20年も闘争民主党を率いるカリスマ党首だ。先の選挙でも第1党の座を維持し、自信に満ちている。
とはいえ、さすがに後継者の準備をしないと、ジョコウィ政権後が不安だ。党はスカルノの血統が売りであり、メガワティの後は、息子か娘が党首を引き継ぐ。これが規定路線だ。
ただ息子のプラナンダも娘のプアンも「世間ウケ」しない。ママは心配だ。これから2人に大臣とか国会議長をやらせて、5年後の選挙までに知名度を高めるしかない。大統領候補は早いけど、副候補にでもなれば、「次の次狙い」も見えてくる。そうなれば世代交代で王国も滅びない。ママの不安も解消だ。
一方、スカルノ時代に欧州に亡命し、スハルト時代に返り咲いたスミトロ博士の血を継ぐプラボウォも、王国の存続に悩む1人である。名家スミトロ王朝から大統領を出すという一家の野望を、息子のプラボウォが果たそうとしてきた。グリンドラ党も作って、大統領選に2回もトライした。大金もはたいた。でも負けた。もう潮時だろう。
とはいえ、今ギブアップしたらスミトロ王国の政治生命は絶たれてしまう。後継者に頼めるか? 息子はイギリス駐在のデザイナー。政治に関心ない。おいのアルヨは若干36歳の国会議員だが、どうも頼りない。せっかく作った党の後継者になる器とは思えない。
だったらもうちょっと頑張るか。67歳現役。まだまだ行ける。トランプだって72歳で元気に大統領だ。自分も5年後に再挑戦? それも悪くない。ジョコウィ相手でなければ今度は勝てるかも。彼がそんな妄想にふけっても不思議でない。
ユドヨノも、王朝維持に頭を悩ませる。故ユドヨノ夫人は、軍が英雄視するサルウォ家の長女だ。父は日本占領期の郷土防衛義勇軍で独立戦争を戦い、1965年の共産党弾圧作戦の指揮を取った人物だ。
その娘と結婚したユドヨノは、政党を作って大統領になった。その王朝をどう持続させるか。2人の息子に期待がかかる。特に長男のアグス。与党連合の仲間に入れ、次期内閣に押し込んで、名声を高めて次の大統領選挙に絡ませる。そこで世代交代だ。それがパパの思惑であろう。
インドネシア版「ゲースロ(ゲーム・オブ・スローンズ)」は始まったばかりである。(立命館大学国際関係学部教授、本名純)