胸に迫る植民地の不条理 映画評「人間の大地」 光放つ女性の生き様

 映画「人間の大地」(ハヌン・ブラマンティヨ監督)が15日、インドネシア国内公開される。同国文学の最高傑作ともされつつも、発禁処分を受けたプラムディヤ・アナンタ・トゥールの長編小説が原作だ。スラバヤで9日に開かれたプレミア上映会を取材した。美しくもリアルに描き出された植民地の不条理は、私の胸を揺さぶった。時代の激動の中で、それぞれの選択を迫られる女性たちの生きざまも主題として光を放っている。

 物語は原作通り、オランダ植民地時代のスラバヤ・ウォノクロモ地区などを舞台に、オランダ式高等学校(HBS)の生徒・ミンケ(イクバル・ラマダン演じる)と、アンネリース(マワル・エファ・デ・ジョン)との出会いを軸に展開する。アンネリースは農園主のオランダ人男性とニャイ(現地妻)・オントソロ(シャ・イネ・フェブリヤンティ)との間に生まれた娘だ。
 今は市街地となっているウォノクロモの農園風景、農園を切り盛りするニャイ、家族や人間の明暗を原作に忠実に再現していく。多彩なエピソードに主題が埋没しないか。3時間の長尺作品、上映が始まってしばらくは心配が頭をもたげた。
 しかし、心配はいい意味で裏切られた。伝統的ジャワ貴族の息子でありながら、近代人たろうとするミンケ、プリブミ(先住インドネシア人)としてのアイデンティティーを抱くアンネリース、プリブミからもオランダ人からもさげすまれながら気丈に生きるニャイ。映画の人間描写は、農園に迫る嵐の中で、個々人の善意など無力にしてしまう、植民地の巨大な闇を浮かび上がらせていく。
 劇的な終幕。ミンケ、そしてアンネリース、ニャイ、それぞれの決断は——。
 少しエロティックなお手伝いさんのせりふなどに、ときに笑いが漏れていた上映会場は、やがて静まりかえった。隣に座っていた国内有力紙のベテラン女性記者が何度も目を拭う。「女として涙が湧いてきた」。私も目頭が熱くなるのを抑えられなかった。監督や出演者へのスタンディングオベーションが続いた。
 この日、上映会には計5千人が詰め掛け、会場のモール周辺では人垣ができ、出演俳優目当ての若い女性の姿が目立った。「(ミンケ役の)イクバルが現れるのを5時間以上待っていた。ハンサムだから好き」と話す女子高校生(17)も。
 プラムディヤは、1965年以降のスハルト体制下で共産党員らが大量虐殺される中、逮捕され、14年間の投獄と流刑生活を送った。「人間の大地」は囚人仲間に話して聞かせた物語をまとめたものだ。そんな時代から遠く離れた世代の人たちが、禁断のプラムディヤの世界に触れる。スハルト時代に「コピーで複製されたプラムディヤ作品を、密かに読んだ」というハヌン監督の手によって。(米元文秋、写真も)

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