恩赦推薦状に署名 セクハラ被害者有罪 ヌリル被告と法相

 セクハラ被害の通話を録音・拡散したとして、女性のバイク・ヌリル・マクヌン被告に有罪判決が下り、再審請求が棄却された問題をめぐり、ヌリル被告とヤソナ・ラオリ法務人権相は11日、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領からの恩赦を求める推薦状に署名をした。ヌリル被告の弁護団体が明らかにした。 

 地元メディアによると、弁護団体は11日朝、ヤソナ氏に呼ばれ、署名に至った。推薦状は、ヤソナ氏から大統領に渡る。大統領は推薦状を受け取った後、国会に意見を求め、恩赦を判断するとみられる。
 ヤソナ氏は、恩赦について、法律や情報通信、宗教の専門家らと検討をしてきた。検討の中で、一部のメンバーから、恩赦が適当でないという意見が上がった。政治的な意向で恩赦が与えられることを懸念していたという。
 ヤソナ氏は、今回の問題と政治とは無関係であると説明している。
 ヌリル被告は2012年、勤務先の校長からひわいな電話を受け、セクハラ被害の証拠として、通話を録音。後に、通話内容がネットで拡散した。最高裁は、情報電子商取引(ITE)法違反の罪で、ヌリル被告に有罪判決を下し、再審請求も棄却した。ヌリル被告は、拡散を否定している。ITE法は、わいせつな記録を故意に広めることを禁じている。
■性暴力排除法の制定を
 ヌリル被告への有罪判決をめぐり、人権団体や法律家は、セクハラや性的犯罪に特化した「性暴力排除(PKS)法案」の早期の整備を求めている。現在の刑法では、精神的なセクハラに対する罰則がなく、ヌリル被告のようなセクハラ被害に対処できないからだ。
 ジャカルタの法律擁護協会(LBH)のアンディ・コマラ弁護士によると、刑法はレイプやわいせつ行為など、身体的な性暴力が中心で、精神的なセクハラを明記していない。被害者は女性のみ対象で、レイプの定義も限定的。
 政府は2016年からPKS法案の議論を始めた。法案には、セクハラや性的搾取、レイプなど、9項目を定め、精神的なセクハラも明文化している。
 LBHのアンディ氏らは「ヌルリ被告は自己防衛の行動だったが、現在の刑法では(今回のようなセクハラ加害者を)罰せられない」と問題視。アンディ氏は「PKS法があれば、ヌリル氏は法に訴えられた」と早期の法整備を求めた。
 また「ヌリル被告のような被害は氷山の一角」と指摘。セクハラに対する罰則不足に加え、「警察は被害者に対して、過去の性的な経験を聞く」「被害者が地元で知られることを心配する」などの理由で、被害が埋もれていることを懸念した。
 PKS法案では、警察で被害者の状況が第三者に知られないようにするために、特別な取り調べ室を設けることなど、捜査の改善点も盛り込まれている。
 PKS法案は、人権保護団体や女性団体が、以前から早期の整備を求めているが、2016年の議論から4年目を迎えた。
 アンディ氏は、「PKS法案に対し、一部のイスラムの保守的な層が反対している。『イスラム法に反する』『性的少数者のLGBT(容認)も入るのでは』などと心配する意見がある」と話し、法律制定の見通しは不明とした。
 ヌリル被告に対する請求棄却以降、LBHやインドネシアの司法監視協会(Mappi FHUI)などがPKS法案の整備を訴えた。LBHの関係者は、現在の刑法がオランダ統治時代から有効で、かつ公的なインドネシア語訳がないことに言及。「今もまだ古いルールに沿っている。公的な翻訳がないので、法律の解釈が分かれることがある」と話し、公的な翻訳の必要性を指摘していた。(木許はるみ)

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