【素顔のFPI】(下) 「武器はスマホだ」 アカウント消されても 格闘家の「兵士」

 イスラム擁護戦線(FPI)活動家のFさん(31)と出会ったのは大統領選翌日の4月18日夜だ。中央ジャカルタの下町、プタンブラン。停電して真っ暗になったFPI拠点での大統領選情勢分析会議を終えて出てきた、数十人の男たちの中にいた。

 日本人記者だと名乗ると「こんにちは」と、あいさつが返ってきた。「コーヒーを飲みに行こう」と誘うと、「OK、僕のバイクに乗って」
 首都圏の郊外の税務署で働いているというFさんのバイクは、なぜか都心へ北上した。「帰りが遠くなるぞ」。「行きたい店がある」。バイクはタムリン通りのジャカルタシアターの駐車場に滑り込んだ。
 「ほかの客が驚くからな」。Fさんは、FPIのスローガンが書かれた服の上に黒のジャンパーを羽織ってから、スターバックスコーヒーに入店した。

■テロ犯は何者か
 「ここで3年前に何が起きたか知っているか」とFさんが問う。「ああ。爆弾で人が殺された」と私。
 事件では、過激派組織イスラミック・ステート(IS)が犯行声明を出した。黒幕としてイスラム過激派組織ジャマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)の指導者に死刑判決が下っている。
 「誰がやったと思う」とFさん。「あれはムスリムの仕業ではない。イスラム教では、あのような爆弾事件は許されない」と、まっすぐ私を見る。「なのにメディアが、イスラム教が過激なものであるかのようなイメージをつくり上げた」と強調した。
 Fさんもメディア不信を口にする。世間で野党の大統領候補プラボウォ氏寄りだとされるテレビ局も含め、「トップは政権寄りだ」と話す。

■コンテンツ満載
 「僕たちの武器はこれだ」。Fさんが、画面にひびが入ったスマホを見せた。「イスラム擁護」を掲げた大集会の動画や、「大統領選に対する外国からのサイバー攻撃」を示す画像が入っている。SNSで拡散されているコンテンツだ。
 「FPIのSNSアカウントは次々と凍結されている。しかし、消されれても、すぐ新しいアカウントを開くだけだ」。FPIのツイッターのプロフィルには10件以上の凍結済みアカウントが並んでいる。
 Fさんは2015年11月に「イスラム教徒守るために闘うため」、FPIに加盟した。「私は伝統格闘技のシラットをやっていて、そのシラット団体の幹部が、ハビブ・リジック・シハブFPI代表という縁があった」と話す。

■プライベート
「話は変わるが、彼女がこの近くの病院で看護師をしているんだ。もうすぐ仕事が終わる」
 そういう話か、ここまで来たのは……。「このジャンパー、僕の誕生祝いに彼女が買ってくれたんだ」とFさん。「2年つき合っているが、いろいろあってまだ結婚できていない。ムスリムとしては、きちんと結婚すべきなんだけれどね」
 引き留めるのは野暮に思え、「では、今夜の議論はここまで。またどこかでコーヒーを飲もう」
 FPIの活動家は「ラスカル(兵士)」とも自称する。格闘技をたしなむ兵士は、恋する普通のインドネシア男性だった。笑みを浮かべ、軽い足取りで駐車場へと消えていった。(おわり)(米元文秋、写真も)

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