「ようかんを世界商品に」 虎屋の17代目黒川社長

 五日にジャカルタで開かれた「虎屋の歴史とものづくり」セミナーで講演するため来イした、日本の老舗和菓子メーカー、虎屋の黒川光博社長に話を聞いた。(田村慎也、写真も)

◇創業から四百八十年が経つ。
 (黒川社長)世界で創業二百年以上の企業は五千五百社ほどあるが、うち約六割が日本企業。ファミリービジネスの企業は、世界では七割だが、日本では九五%ほどを占めている。
 日本は歴史の長いファミリービジネス企業が多い。
◇ファミリービジネスを継続させる秘訣は。
 虎屋では、兄と弟の間で継承されたこともあったが、原則長男が社長を務め、他の親類は経営に携わらないのが不文律となっている。経営に関わるのは一世代に一人というのが、ファミリービジネスの鍵ではないかと思う。
◇虎屋が行っている「愚直な菓子作り」とはどのようなものか。
 例えば、菖蒲饅(あやめまん)という商品は、筆を使って一つ一つ人の手で葉を描いている。どのように描いても違いはないかもしれないが、情景に思いを馳せ、下から上に向かって勢いよく描いている。試食も、客と同じような状況で座り、うるしの皿にのせ、つまようじを刺して食べている。
◇創業以来、味は変わっていないのか。
 かつて、砂糖の入手が難しい時代があった。その時は、甘みは今より少なかったと思う。老舗だから味を変えていけないということはない。今の顧客に満足してもらうことが重要。将来のためにどう継続していくか。今やらなければならないことは山ほどある。
◇フランスに出店しているのはなぜか。
 先代が一九五〇年ごろに初めてフランスへ行った。街のたたずまい、フランス人の心持ちが、京都と非常に似ていると感じたという。その時、もし海外に出すのであればフランスに、という思いが芽生えていた。それから三十年後に出店。自分の次の代くらいに、アジアの人にも食べてもらいたいと考えている。
◇海外展開について、どう考えているか。
 はじめて食べるものであれば、誰でも一歩引いてしまう。しかし、おいしいものであればまた食べたくなる。そして、何度か食べていくうちに好きになるというのは世界共通。和菓子が世界に受け入れられる素地は十分にある。パリには、日本人よりもっと和菓子の味に詳しい人もいる。和菓子は特に中東で人気。アラブ首長国連邦などでは、店舗、工場を作ってほしいなどの要望が多く、サウジアラビアのロイヤルファミリーは虎屋の商品が大好物だ。
 しかし今は、九九%ぐらいは、日本の顧客を意識して菓子作りをしている。
◇日本政府は「クールジャパン」政策で、食品も海外に売り出そうとしている。 
 日本の味が世界になじまないということはないだろう。ラーメンや、すしは海外でも大衆に浸透している。もっと本格的にやった方がいい。短期間で集中的にやる必要がある。
◇今後の夢は。
 いつの日か、ようかんを世界商品にしたい。そんな夢を持っている。ヨーロッパや中東、アジアで浸透しやすい。インドネシアでもようかんに似た菓子「ドドル」がある。チョコレートが当たり前に世界中で食べられるように、ようかんにも可能性がある。寒天は溶けることはない。世界中であずきを作ってほしいとも思う。
 和菓子を海外で作るには、技術者の育成が重要だ。フランスでは、国を上げてやっている。
◇虎屋の社員教育はどのようなものか。
 原材料研修では、畑に出て栽培や収穫をやってもらっている。農家の苦労を知らずして良い菓子を作れないという考えからだ。贈り物の包み方の研修も行っている。時代とともに、簡略化されつつあるが、伝統や文化を今の人に伝えていきたい。菓子を売ることでその手伝いができたらと思う。会社は個を磨くきっかけづくりはできる。自らを磨く喜びをもってほしい。

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