GAM元「外相」リード 「2つの成功」問う 2回目の州知事選 和平・復興進めたアチェ

 二〇〇四年のスマトラ沖地震・津波で壊滅的な被害を受け、翌〇五年に約三十年にわたる分離・独立紛争が終結したアチェ州で九日、和平後二回目の統一首長選が行われた。アチェ州知事選のほか、州都のバンダアチェ市を含む十七の県知事・市長選を同時開催。昨年末から不安定な治安情勢が続いたことから、選挙に混乱を来さないようにと休日となった同日、有権者約三百二十万人が九千七百八十六の投票所で投票を行い、即日、開票が開始された。州知事選の結果は十五日までに判明する予定。選挙の成否はアチェにとって、円滑に推移した和平プロセス、震災からの復興への取り組みという「二つの成功」の継続を問う試金石となる。

 アチェ州知事選には、二〇〇六年の初の直接選挙で選出された現職のイルワンディ・ユスフ知事とムフヤン・ユナン同州公共事業総局長の正副知事候補のほか、スウェーデンに長年滞在し、GAM最高指導部の「外相」を務めていたザイニ・アブドゥラ氏とGAMを母体とするアチェ党のムザキル・マナフ党首の正副知事候補など五組が立候補した。
 GAM元幹部のイルワンディ氏はアチェ党の意向に背く形で再選を目指して立候補。アチェ党は、政党の推薦を受けない無所属のイルワンディ氏の立候補を無効と訴えた。旧GAMメンバーの支持はイルワンディ氏とアチェ党陣営で分裂。治安不安定化の要因となり、昨年十月に予定されていた州知事選は複数回延期された。 
 最終的に憲法裁がイルワンディ氏の出馬を認め、アチェ党はザイニ氏を擁立。二週間にわたる選挙キャンペーンは比較的平穏に行われ、投票日の九日も目立った混乱は起こらなかった。ただ大規模な動員力を持つアチェ党の選挙後の動向次第では、再び治安が不安定化する可能性もある。
 両候補とも選挙戦では和平プロセスの順守とともに、州政府の官僚機構改革による市民生活の向上を公約として掲げた。
 同日午後二時の投票締め切り後に民間調査期間インドネシア調査研究所(LSI)が発表した開票速報では、ザイニ氏が過半数の得票を獲得してリード。イルワンディ氏が約三〇%の得票で追っている。
 ユドヨノ大統領は九日、報道官を通じて「選ばれた首長が市民の真の選択になることを願っている」と述べ、選挙後の混乱回避を呼び掛ける声明を発表した。
 アチェはインドネシアで唯一、イスラム法(シャリア)を施行しており、敬けんなムスリムが多い地域として知られているが、ジャカルタ駐在の国際研究機関インターナショナル・クライシス・グループ(ICG)の研究員シドニー・ジョーンズ氏は「宗教は争点とはなっておらず、平和の継続と経済の活性化が候補者に問われている」と分析した。

◇アチェ
 インドネシアで最も北西に位置。インドネシアで最も早くイスラムを受容し、十六―十七世紀にはイスラム王国のアチェ王国が栄え、オランダの植民地支配に抵抗した。インドネシア独立後の一九七六年、スハルト政権がガスなどの豊富な天然資源確保のため軍事支配を強めたことに反発し、アチェ王国の指導者の末裔でもあるハッサン・ティロ氏が自由アチェ運動(GAM)を組織して分離・独立を宣言し、スウェーデンに亡命政府を樹立。インドネシア政府は戒厳令下で抵抗するアチェ人を弾圧した。二〇〇四年のスマトラ沖地震・津波の被害をきっかけに和平協議が進展。〇五年に和平文書に調印した。和平に基づいて制定されたアチェ自治法ではアチェに対し、インドネシアで唯一のイスラム法(シャリア)の施行を含む広範な自治権を付与している。

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