日本でも発生の恐れ JICA調査団報告(上) 広範な陸地液状化
中部スラウェシ地震・津波被害の復興協力で、現地調査を実施した国際協力機構(JICA)調査団はこのほど、世界でも珍しい広範な液状化と、液状化に起因する津波が発生したと報告した。いずれも浅い地下水脈があるなど、地理的条件が合えば日本を含めどこでも発生しうると警鐘を鳴らす。住宅地をのみ込んだ陸地の液状化と、複数の海岸部の液状化で生じた津波について、2回にわたり詳報する。
液状化は、地下水位が浅く、ゆるく固まっていない河口デルタのような砂の堆積地で、地震があった際に起きる。一般的には地中3メートル以内に地下水がなければ起きないとされる。日本では、2011年東日本大震災やことし9月の北海道地震などで発生し、土砂の噴出や地面の陥没、住宅の傾斜などが報告された。
今回、JICA防災専門家の多田直人氏らは、「陸地の津波が起きた」などとの証言があるパル市バラロア、ペトボ、シギ県ジョノオゲで実地調査を実施。被災地には、浅い地下水脈のほかに、粘土層に挟まれて圧力がかかった「被圧帯水層」が下にあったため、大規模な液状化が起きて土地が滑り落ちていったとの仮説を立てる。パル市やシギ県の被災地は扇状地にあり、数度の緩い傾斜があったという。
被害のメカニズムは、まず液状化して下方の土地から流れていき、流れた部分の上部は支えがなくなったことで下に流れる。土地が隆起したとの証言もあるが、滑った部分が重なったのが原因とみられる。地震で倒壊せずそのまま流された家屋もあったが、いろいろな方向の力が働き、バラバラに崩れながら泥に巻き込まれた建物がほとんどだったと指摘する。
バラロアの衛星写真からは、モスクのミナレット(塔)が225メートル、赤い屋根の家屋が今回の観測で最大の375メートル回転しながら流れたことも分かった。シギ県ジョノオゲでは、土地が滑った先で盛り上がらず、先が洪水のようになっていた。被圧帯水層が上部にあり、他より多く水が出たとみている。
多田氏は「広い地域が液状化すること自体がまず珍しい。普通なら固まって止まっているところが、平地まで行かないと固まらないという状態になった。傾斜も数度と緩く、被圧帯水層が破れ、(勢いよく)水が供給され続けなければ説明がつかない」と分析する。
震災後のペトボの地盤を調べる簡易的なボーリング調査では、液状化で流れた土地の地中1メートル前後で、地下水が観測された。液状化していない近くの土地ではサボテンが生えるなど植生が異なり、同4・5メートルまで地下水は確認されなかった。
今後本格的なボーリング調査をインドネシア側も予定しており、その結果を待って仮説の正当性を判断する。多田氏は「(他の場所でも)条件がそろったら起きる」と、同様の災害発生の可能性を指摘した。(中島昭浩、写真も)