民主主義の後退 ジョコウィ政権4年 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授 見市建

 ことし1月、世界の民主主義指標を発表しているイギリスのエコノミスト誌は、インドネシアの評価を2年連続で下げた。来年にはシンガポールを下回って域内4位に転落するかもしれない。
 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権は市民社会の強い支持を受けて誕生した。とくに2014年大統領選の相手が、数々の人権侵害の過去があるプラボウォだったからなおさらであった。実際プラボウォ側は怪文書やフェイクニュースの乱発を厭(いと)わなかった。ジョコウィの勝利は、民主主義の勝利だった。
 ではジョコウィ政権に何が起きているのだろうか。
 一番の問題は政権による法律の恣意(しい)的な運用である。権力固め、反対勢力の懐柔あるいは処罰のために、法律が使われている。
 14年10月の政権成立当時、与党連合は国会内で過半数を大きく割っていた。しかし政府は野党の分裂を促し、体制寄りの派閥に法的お墨付きを与えた。その手法は、スハルトの権威主義体制さながらである。
 法の恣意的運用がよりあからさまになったのは、16年末にアホック元ジャカルタ州知事が「宗教冒とく」で訴追され、前後して「イスラム防衛運動」の名の下にデモが繰り返されて以降である。
 訴追のタイミングは大規模なデモの圧力によるものだと考えるのが自然だろう。
 政友アホックをいわば刑事裁判に「差し出した」あと、大統領側の反撃が始まった。大衆動員の先頭に立ったリジック・シハブは「反ポルノ法」違反に問われ、国外に逃亡した。急進的組織の解放党は、大衆団体法の「大統領令による」改正によって解散に追い込まれた。
 最近では、ジョコウィに対する落選運動である「#GantiPresiden(大統領交代)」に対して、警察の強引な鎮圧が相次いだ。
 それでもプラボウォ支持勢力以外からは、大統領への批判は広がってはいない。権威主義の申し子のようなプラボウォ側からの批判の説得力は弱い。メディアのチェック機能も働いておらず、支持率は高いままである。
 政権はこうした意識の低さを織り込み済みである。
 大統領選はまたプラボウォとの一騎打ちになった。フェイクニュースと超法規的な取り締まりの応酬は、インドネシアの民主主義にとって良からぬ影響を及ぼすだろう。

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