幸せのブルーシート シギ県シデラ 避難民とともに結婚式
ピンクのドレスに身を包んだ花嫁と、スーツとサロン姿の花婿が姿を見せると、家族や避難民の間から歓声が湧き起こった。中部スラウェシ地震で大きな被害を受けたパル市の中心部から南方へ約10キロの農村地帯。地震や津波で家を失った多くの人たちが身を寄せるシギ県シデラ村。新郎の実家の農家で10日に開かれた結婚式は、しばしお祝いの言葉や笑いに包まれた。
農家の軒先の青いビニールシートの下で、ライスシャワーを浴び、ほほ笑む花嫁、チチ・ファルミタさん(20)は、9月28日の地震で、おばと暮らしていたパル市西部カンプンレレの自宅が津波の直撃を受けた。
新郎ムハンマド・イクサンさん(20)は翌朝、オートバイで飛び出した。連絡が取れないチチさんを捜すためだ。丸2日かけて、市西部ドンガラコディの避難所でチチさんを見つけたときは「うれしかった。本当に」と白い歯を見せ、チチさんと見つめ合った。
ふたりは高校2年のとき、フェイスブックを通じ知り合い、付き合いを続けてきたという。「幸せがいっぱいの家庭をつくりたい」とイクサンさん。「子どもは何人ほしいか」と問われると「1人でいい」。出席していた友人たちが「たくさんだろう」「大人だなあ」と冷やかした。
本来の予定では、結婚式は3日にチチさん宅で行われる予定だった。しかし、家はなくなった。出席を予定していたおばやきょうだいは別の避難所暮らし。津波のトラウマがひどく、式に出席できなかった。
最初はにこやかだったチチさんは、次第に伏し目がちになり、目に涙がたまっているように見えた。
イクサンさんの父ザイリンさん(52)は「地震のせいで、わが家も出席者のために牛を用意することができなくなり、ニワトリだけだ。500人ほど招待する予定だったけれど、それも駄目になった。でも、大切なのは、結婚式を挙げることだ」と話す。
イクサンさんの実家には、パル市から避難してきた9家族の50人が身を寄せ、家のひさしの下などで生活。結婚式にも出席した。
「この辺りには地元の人だけではなく、ジャワ人などいろいろな民族の人たちが避難している。私たちは一つの大きな家族だよ」。イクサンさんの親戚の男性が言い切った。(米元文秋、写真も)