「アチェに出合って」 ファンタジー映画 「海を駆ける」公開 深田晃司監督に聞く

 アチェ州を舞台にしたファンタジー映画「海を駆ける」が26日、日本で公開された。2004年、スマトラ島沖地震で甚大な津波被害を受けた州都バンダアチェで、ディーン・フジオカ演じる「海から来た謎の男」と日本とインドネシアの若者たちの出会いを描く。深田晃司監督は「震災を経た日本人に、アチェに出合ってほしい」と語った。
 バンダアチェの復興支援NPOで働く貴子(鶴田真由)のもとに「海辺に日本人らしき男が打ち上げられた」と連絡が入る。身一つでほとんど話さぬ男(ディーン・フジオカ)は、「ラウ(インドネシア語で海の意味)」と名付けられ、貴子が預かることに。貴子の息子のタカシ(太賀)、友人のクリス(アディパティ・ドルケン)とイルマ(スカル・サリ)、日本から来た親戚のサチコ(阿部純子)の4人はラウの身元調べに奔走する──。
 深田監督をアチェに引き寄せたのは、11年3月の東日本大震災だった。津波で流される人々、町の映像に衝撃を受けた監督はその年の12月、京都大学などによるシンポジウムの撮影のため、初めてアチェを訪れた。スマトラ島沖地震から7年たっていた。
 「東日本大震災では足元がひっくり返るようなショックを受け、日本のことを考える時はいつも津波に結びつける状態でした。その記憶も濃いままアチェへ行きました。04年当時、地震の映像を見ていたのに、海外ニュースの一つとして消費し、東北で起きた津波の時のようにショックを受けなかったのです。無意識に日本との壁を作っていたことを、アチェで突きつけられました」
 日本とインドネシアを結ぶ作品を撮れないだろうか。ディーン演じる謎の男を媒介役に、二つの被災地を結びつけることを考えた。突然海から現れ、主張せず、静かに微笑んで登場人物の傍らにいる。ラウが発する無国籍感は、ディーン本人からにじみ出るようだ。
 「ラウは超自然的な存在で、植物のように登場人物と一緒にいます。ディーンさん自身、福島で生まれて、二十代のほとんどをアジアで過ごして、今また日本に帰ってきました。彼の人生そのものが、ラウの役柄に合いました。ご本人はとても真面目で、真っ直ぐで、クレバーな人。いろいろな文化圏で生きて、培われた世界の見方がいいなあ、と思いました」
 撮影は1カ月間、アチェでのオールロケで行われた。深田監督にとってインドネシアと出合う旅でもあった。1日5度鳴り響くイスラムの祈りの声。豊かな自然やおいしい食べ物、人なつこい人々。撮影スタッフの大半はインドネシア人で、てきぱきと働く姿に「日本との差はほとんど感じず、とても優秀でした」と振り返る。
 「震災を経た日本人に、アチェに出合ってほしいと思います。津波に苦しんだのは日本人だけではない。それを意識するだけで、少し気持ちが軽くなる気がします。アチェを知ることで、心が動かされ、体験が相対化されるような気がするんです」(阿部陽子=ライター)

 ふかだ・こうじ
 1980年、東京都出身。2010年「歓待」が東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞。16年「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞。「ほとりの朔子」(13)、「さようなら」(15)など。

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