【火焔樹】 21世紀最後のW杯

 サッカーのワールドカップ(W杯)アジア予選で、インドネシアが十点差を付けられ大敗を喫したのをきっかけに、八百長ではないかとの見方が取り沙汰されている。本当にそんなことがあったのかどうかはさて置き、インドネシアのサッカーがいつ世界の強豪相手に互角に戦えるようになるかを思うたびに、ため息をつくばかりだ。
 ちなみにインドネシアは、戦前の一九三八年オランダ統治時代、蘭領東インドとしてワールドカップ出場を果たしている。一方、一九七〇年代の真ん中に、私の父親がサッカー・インドネシア代表を引き連れて日本代表と国立競技場で行った試合の結果は引き分けだったと記憶している。戦前のワールドカップ出場や当時の日本と引き分けたくらいで自慢話にもならないが、少なくとも一時期までインドネシア・サッカーは日本と同じレベルにあったのだ。
 また当時は、日本のサッカー選手がインドネシアでキャンプを行うなど、サッカーを通しての交流も盛んに行われていたと聞く。最近、全日本大学選抜のメンバーがインドネシアで合宿を行い、地元の子どもたちへのサッカークリニックが開催されたようだ。こんな試みがどんどん行われ、国、民間企業、Jリーグなども巻き込み、インドネシア・サッカー界の発展に寄与するシステムを作り上げることはできないだろうか。
 この際日本は、何も自国の勝利だけに力を注ぐのではなく、二一世紀最後のワールドカップ決勝は満員のスナヤン・ブンカルノ競技場で、インドネシア対日本を実現させるくらいの気概を持って挑んでほしい。決勝戦が本当に実現すれば、その後百年の両国の関係は安泰と確信する。未来の日本の国力の衰退やその頃には今の立場と逆にインドネシアが経済大国になっているだろうことを考えると、この安泰が、未来の日本という国の存亡にも大きく関わることにもなり得るような気がする。
 何世代も続く人類共通の文化であるスポーツへの真摯な取り組みが、草の根レベルから国家レベルまで浸透することを願う。(会社役員・芦田洸)

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