【火焔樹】 待つことと待たせること

 時間を守らないで悠然と構え、大物振りを日々発揮するインドネシアの人たちも、時間を必ず守る局面がある。
 まずは、お祈りの時間。一日五回のお祈りを欠かさない人にとって、お祈りの決まった時間に遅れることはご法度である。普段、取引先との約束の時間が迫っているにも関わらず、なかなか会社を出ようとしない人でも、金曜日のお昼のお祈りの時間には、早めにオフィスを抜け出す。
 二つ目は、飛行機の出発の時間には敏感だ。さすがに乗り遅れると痛い目にあうことを心得ているようである。ならば、毎日遅刻することにも敏感になってほしいのだが。
 三つ目は、電気代や電話代の支払期日が一日でも過ぎた場合、決まりに従って即使用を停止される。この時の職員の対応の速さには目を見張るものがある。
 お祈りの場合は、神との約束ごと。飛行機の時間は、自分への不利益のみならず、他人に迷惑をかけないことへの配慮とも受け取れ、電気、電話の料金の支払いは、公共のルールである。こう考えると、皆、約束を守り、他人への思いやりを尊重し、社会の一員として責任を果たすという理想的な人間像が思い浮かべられるのだが、なかなかこのほかの時間に関することには、うまく対応できないのは何故だろう。
 絶対的な存在である神との約束ごと以外は約束ではなく、これ以外の約束と呼ばれるものは、自分に不利益を被ること以外は、単に物事が実現すればそれでいいのであろう。インドネシアで分刻みで動いている人はほんの一部で、そのほかは、日本人の専売特許のような「待つことと待たせることへの過敏な反応」をものともせず、今か今かと望みながら時を過ごすことに楽しみすら感じている人が多勢である。
 それを考えたとき、こんな時間の概念がまったく異なる世界で、遅刻してきた部下を罵倒(ばとう)する自分があまりにも滑稽(こっけい)な存在に思えて仕方がない。定時を毎日一時間近く遅れてくるわが社のV君、怒ってばかりいてごめんね。(会社役員・芦田洸)

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