「寛容の精神」手本に オバマ氏が基調講演
バラク・オバマ前米大統領は1日、南ジャカルタのショッピングモール、コタ・カサブランカ内のカサブランカ・ホールで開かれた第4回ディアスポラ会議で基調講演した。頻繁にインドネシア語を交えながら、世界は寛容性を尊重するインドネシアの国是「多様性の中の統一」を手本とし、テロや貧困撲滅に向け協調していくことが重要だと強調した。
登壇したオバマ氏はまず、「今回の旅は私にとって特別なものになった。ここ(会場)から数マイルの場所にある家に住み、数ブロック先の学校に通っていたからだ」と述べ、かつて暮らしていた南ジャカルタ・メンテンダラムや中央ジャカルタ・メンテンに言及した。
「私がインドネシアに滞在した1967年当時、高い建物はホテルインドネシアやサリナ(デパート)しかなかった。今では(東ジャカルタの)ハリム空港からは高速道路が続いている」と隔世の感があると話した。
インドネシアとの関係について、インドネシアを愛した母の故スタンレー・アン・ダナムさん、ジャカルタで生まれた異父妹マイヤさんについて説明し、インドネシア語で「インドネシアは私自身の一部だ」と強調した。
オバマ氏は「インドネシアの精神は寛容性にある」と指摘し、インドネシア人の義父の故ロロ・ストロ氏はムスリムだったが異教徒を尊重していたと説明。今回の滞在中に訪れた仏教やヒンドゥー教の遺跡が、ムスリムの多い国で保護されていることの重要性を指摘し、「インドネシアの寛容の精神こそ全世界、イスラム国家が手本とすべきものだ」と述べ、インドネシア語と英語で、国是「多様性の中の統一」が重要だとたたえた。
今回、1月の退任後初のアジア訪問にインドネシアを選んだことについて、「インドネシアの未来を信じているからだ」と説明。次世代への期待を繰り返し強調し、「インドネシアの若者がフェイスブックに多くの時間を費やしているように、インドネシアと世界はつながり、技術が世界を急変させている」と指摘した。
しかし一方で、技術の発展によって世界で非寛容と差別の波が急速に増大し、即席の情報が不安を生じさせ、社会基盤を揺るがしているとの認識を表明。「こうした問題に対し、他国と協調することで切り抜けることができる」として、大統領在任中に直面した米国の財政危機を例に挙げた。
今後、共に取り組むべき課題として貧困や保健、気候変動、テロリズムなどを列挙。オバマ氏自ら推進した地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」について、協定離脱を主張するトランプ大統領を痛烈に批判する一幕もあった。
■重要なパートナー
ディアスポラ会議は、米国など海外在住インドネシア人やインドネシア出身の親族を持つ人々が集う。今回の会議には招待客約4千人が出席した。
今回のオバマ氏の来イは、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が訪米時にオバマ氏を招へいして実現した。
ジョコウィ氏は国家の発展に海外で活躍するインドネシア人の知見を結集させることに積極的で、国家機関の要職などに企業幹部や大学教員の登用を推進している。
主催者として調整役を務めたディノ・パティ・ジャラル元外務副大臣は、「オバマ氏は退任後も世界の指導者として、気候変動や世界平和などの問題に対し発言を続けていくと思う。インドネシア外交にとっても引き続き重要なパートナーになる」と強調した。
個別にオバマ氏と面会したアニス・バスウェダン次期ジャカルタ特別州知事は、「ディアスポラ会議には米国で開かれた初回から参加している。今後、海外在住者による祖国への貢献がさらに重要になっていく」と語った。
オバマ氏は講演後、少年時代に通った中央ジャカルタのメンテン国立第1小学校を訪れ、当時の教師や友人と旧交を温めた。2日、ソウルに向けて出発した。