【帰ってきた看護師たち】(上) 「初めて役に立てた」 邦人患者と医師橋渡し 

 2008年に始まった日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士受け入れ事業で、同年に日本へ渡った第1陣の看護師候補者にとって最後となる看護師国家試験が19日に行われた。これまでに日本に渡った看護師候補者は約350人。だが正式な資格取得や滞在延長の条件となる国家試験の合格は難解な漢字などが壁となり、合格者数は低調なまま推移。第1陣の候補者の多くが昨年までに帰国した。日本政府は制度や試験の改善を進めているものの、抜本的な解決にはなっておらず、今後も帰国者が続出することが予想される。高度な技術者を送り出すという両国間の初めての試みの中で日本で働いた看護師候補者たち。インドネシアへ帰国後、日本での経験を生かして働く2組の元候補者の現在を取材した。
 
 南ジャカルタのポンドック・インダ病院内にある日本人患者専門の診療所「Jクリニック」では、ヘルフィナ・ウィダ・アンジャニさん(二八)とリア・ウィジャヤンティさん(二六)の二人が働く。
 元々、外国人もよく利用するポンドック・インダ病院で働いていた二人。「日本で挑戦したかった」というのが日本行きを志望した第一の理由だが、「高い給料も魅力的だった」と振り返る。EPAが締結されて駆け足で始まった〇八年の第一陣派遣の際は情報が少なく、日本ではインドネシアでの給料の数倍がもらえるといううわさが先行。同病院からだけでも二十人ほどが日本へ渡った。
 だが、物価の高い日本ではほとんど貯金はできず。「病院では看護師として働けず、毎日勉強に追われるのも大変だった」と二人。二〇〇八年に日本に渡ったウィダさんは、二回試験を受けて「もう無理かな」と思い、二〇一〇年に帰国。リアさんは二〇〇九年に日本へ行き、二回の試験は不合格で、東日本大震災の被害を家族が心配したこともあり、昨年帰国した。「普通の病院に戻ったら日本での経験がもったいない」と思い、Jクリニックで働くことを決めた。
 日本では補助業務しかできず、試験勉強で病気や薬の名前を頭に詰め込んでも使う機会はなかったが、総合病院内にあり、重病の患者も多い同クリニックでは「日本で勉強したことを初めて看護師として使うことができた」とリアさん。ウィダさんも「日本ではイメージだけだった。今は直接日本人の患者さんとやり取りをすることで、病気のことが分かってきた。役に立てていることを実感する」と話す。
 注射などの措置もこなすが、クリニックで対応できない患者が来た場合には、患者に付き添って各専門医のところへ直行。患者の症状を医師に伝え、医師の治療方針を患者に伝える。
 自身が重病を患ったことをきっかけに、「頭が痛いと言うことはできるが、英語やインドネシア語でニュアンスを伝えることは難しい」とJクリニックを設立した桐島正也さん。「全員が日本人の患者。看護師が日本語ができれば、患者さんが自分の病状をはっきりと伝えることができる」と帰国者を雇用した。
 設立以来、日本の看護師資格を持ってはいないが、日本語のできる看護師を雇ってきた。「国際病院で患者の応対をしたり、手術に立ち合ったりしている人たちは、相当な経験と知識を持っており、日本人の患者さん相手に十分に仕事ができる」と力を込める。
 桐島さんは「もし知識の有無を問いたいのであれば、インドネシア語で国家試験を受けさせればいい。わざわざ呼んでおいてほとんどの人を帰すなんて、日本政府は何のためにこの事業を行っているのか未だに分からない」と厳しい。
 「もし試験に合格していたら、日本で働き続けていた」と声をそろえる二人。今後、日本への再チャレンジは考えているのかと聞くと、「英語が併記されると言っていたけど、病名に英語が付いただけで、ほとんど変化はない。これからも変わらなければ難しいかな」と語った。(つづく)

◇ 看護師・介護福祉士受け入れ事業
 二〇〇八年七月に発効した日本とインドネシア間の経済連携協定(EPA)に基づいて開始。第一陣の候補者百四人は同年八月に日本に派遣された。三年間の滞在期限中に看護師国家試験に合格すれば正規の看護師としてその後も働けると規定されている。第一陣は一一年までに三回の試験に臨み合格者数は十五人で合格率は約一五%。日本人の合格率約九〇%と比べて非常に低率となっており、政府が特例措置として成績上位者に限り一年間の滞在延長を認めた。これまでに同事業でインドネシアから日本へ渡った看護師候補者は計三百六十三人、介護福祉士候補者は四百二十八人。同様の事業は〇九年からフィリピンとも行っているほか、ベトナムとも今後、開始することを決定している。

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