撤去から村を守ろう 改革を進める住民組織
「自らの手でカンプン(村)を変えよう」——。洪水対策や都市開発・整備の一環として、ジャカルタ特別州が川沿いで進めてきた住居の強制撤去。その対象エリアの一つ、チリウン川沿いにある北ジャカルタ区トンコル、ロダン、クラプの三つの村では、州政府のやり方と向き合いながら、村を守ろうと奮闘している人たちがいる。
車が行き交うトンコル通りからさらに小道に入って進むと、川岸にたどり着く。3村では川岸から約15メートルの範囲に家が並ぶ。川岸から約5メートルはすでに道が舗装されており、子どもたちが乗った自転車やオートバイ、物売りらが通る。
前ジャカルタ特別州知事のアホック氏が中心となって始めた川沿い住居の強制撤去。この三つの村がある地域にも2015年、洪水対策と公共道路整備のため、川岸からまず5メートル、さらにその後、15メートル以内にある住居を撤去するという通達が突然届いた。
トンコル村に住むググン・ムハマド(34)さんは「自分たちの居場所が奪われることが怖く、何とかしなければと必死だった」と当時を振り返る。
通達後、3村の住民たちは、ググンさんらを中心に話し合いを続け、村の改革を目的にした住民組織「アナック・カリ・チリウン・コミュニティ」を立ち上げた。「移転したくない。そのためには村を変えなければいけない」という思いからだった。
同コミュニティの調査によると、3村では1992年、川沿い5メートルの土地を州政府が買い上げていたことが分かった。
そこでググンさん一家ら一部の住民はまず、州の土地である川から5メートルの範囲内にあった自宅を自ら解体。新たに共同の長屋を作ることにした。
自宅が取り壊しに遭い、州の用意した公営住宅(ルマススン)に移転する住民もいる中、ググンさんは村改革への思いを「行政側はいつも、川沿いに住む住民や村のことを、汚くて、みすぼらしいと言う。だから、私たちの力で美しいライフスタイルを作れるんだって証明したいんだ」と語る。
同コミュニティによると、長屋建設など村改革のために用意した資金は約2億8千万ルピア。「撤去に反対しコミュニティを守り、美しい村へ改革する」という理念に共感した民間や非営利団体などから借りるなどして集めた。借りた資金は無利子で、住民全員で少しずつ返していくという。
住民が共同で生活する長家の建設、家庭から出るごみや汚水処理などに取り組んできた住民たち。学生や他団体向けに、村での取り組みを伝えるワークショップも開いている。またオランダ統治時代の建物が残る地域でもあることから、観光地化も目指していくという。(つづく)(毛利春香、写真も)