【バタン 発電所の現場(上)】 4年越し 大統領視察が転機 くい打ち工事始まる 東南アジア最大級の発電所

 日本の企業連合が主導し、2011年に事業が始まった中部ジャワ州バタン県の石炭火力発電所。200万世帯、1300万人分の電力需要を確保できるともされる発電所は、住民の反対で土地収用が難航し着工が約4年ずれ込んだ。工事が本格化した東南アジア最大級の発電所の建設現場を追った。

 10月25日、中部ジャワ州バタン県。ジャカルタから約350キロ東に進んだ海岸沿いにある建設予定地はきれいに整地され、タービンの設置場所でくい打ち工事が始まっていた。うなりを上げる重機の周辺を約90台のダンプが次々と土を運び地盤をかさ上げしている。
 バタンの発電所は伊藤忠商事や電源開発(Jパワー)が出資する事業会社が主導。三菱日立パワーシステムズがタービンなどの発電設備を担当、日本の企業連合が仕切る。
 6月に国際協力銀行(JBIC)が約3700億円の融資を決めて以降、現場の作業員は同月時点の300人から10月に900人を超え、最終的に約8千人まで増える。融資契約締結後の進ちょく状況は20年運営開始に向けて、ほぼ順調という。
 当初計画では12年に着工し、16年には発電する計画だった。事業者は海岸沿いの建設地をかさ上げするために、側に丘のある好立地を選んだ反面、地権者の人数は500人を超え、土地収用の交渉に時間を要した。以前には住民と衝突し一時日本人社員が拉致された。当時を知る人は「外国人が村を行き来することさえ難しかった」と語る。
 建設地にあたるカランゲネン村の住民は「これまでさまざまなNGO(非政府組織)が来ていたが、今は以前ほど多くない」。
 「大統領が来て以降、住民の発電所に対する意識が変わった」と語るのは、発電所の建設地、カランゲネン村とウジュンネゴロ村を管轄するカンデマン郡のスパルディ郡長(52)だ。15年8月の大統領視察で村の住民全体の心境に変化を感じたという。現在は作業員の3割ほどを地元住民から雇用している。建設地の出入り口には露店が建てられ、昼食時には作業員の憩いの場となる。
 住民の反対が完全になくなったわけではない。建設地のすぐ側に黄色い小屋、通称イエローテントが残っている。NGOなどの支援で建てられた小屋には「NO! バタン」と記された旗が揺らめく。地元の警備員は「今はすっかり人の出入りがなくなった」と話すが、建設地からやや離れた場所に住む漁民を中心に一部で抗議は続いている。
 発電所の事業会社、ビマセナ・パワー・インドネシアは国の定めるアムダル(環境影響評価)の基準に沿い、住民への代替地の提供や小口資金を融資して事業を支援する「マイクロファイナンス」の提供、地域ごとに小さなグループを組織し村ぐるみでの雇用創出といった住民の自立支援プログラムを提供してきた。(佐藤拓也、写真も)(つづく)

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